1943年に撮影されたというマンモスの映像はBBCのCGのパクリ

タイトルで全て言い尽くしている話.
こんな記事があることを教わった。英語圏でも話題になっている話で、1943年にシベリアで撮影されたという触れ込みのマンモスの映像が公開されたという。
マンモスは20世紀まで生きていた?第二次世界大戦中にロシアで撮影されたマンモスらしき生物の動画(1943年) : カラパイア

撮影したのはソ連の捕虜になったドイツ軍のカメラマンだという。
ちょっと前からテレビ番組の探検隊が捜索に行きそうな話である。


しかし1943年の映像にしては鮮明すぎるし、捕虜がそんな映像を撮影して持ち帰ったというのも無理がある。海外でも疑われ、早々にネタが割れていた。
その結果、この映像は2001年にBBCで放送された<"Walking With Prehistoric Beasts"Episode 6 Mammoth Journeyの1シーンから切り抜いたものだと特定されている。

(19:06あたり)
絶滅したはずの生物が現代も生きているとか、未確認生物とかいったものの映像について、ドキュメンタリーのCGを加工して本物であるかのように扱うという手法はよくある。
2012年にも川を渡る現代のマンモスの映像という触れ込みで報道された動画が、実際には既存の映像にCGのマンモスを加えて編集したものだったことが明らかになった。
'Woolly Mammoth' Video a Hoax, Original Footage Proves
こうした加工は昔より容易にできるため、この手の作り物は多い。それにしても今回のは安直だった。
(追記)
紹介しているカラパイアでもコメント欄経由で指摘され、記事にも反映されていた。
さすがにこれは気づいた人が多かったのだろう。

ニセ科学と図書館分類の判断

ここ数日、ニセ科学の本をどう分類するかについてはてなブックマークで話題になったので、それに関して書いておく。

前提として

まず、図書館の分類は主題の正誤や善悪の価値判断を示すためのものではない*1。科学的に正しいかどうかによって分類を「自然科学」からはずすかどうかを決めたりはしない。
そうした判断を取り入れると、政治・思想・宗教あるいは科学的な異論を含め、無数の介入、バイアスの存在を許すことになるからだ。図書館ではID論の図書をキリスト教に分類せず、進化論の本として分類するし、偽史資料に基づいた歴史本もフィクションではなく歴史に分類している。ニセ科学の本だから自然科学の分類ではない分類にする、という単純な判断はしないし、すべきではない。
しかし、分類を検討しなければならない場合はある。

判断をする例

図書館が全く内容の判断をできない・しないというわけではない。何かを偽装したものに関しては、一定の判断をすることもある。
例えばハラルト・シュテンプケ『鼻行類 : 新しく発見された哺乳類の構造と生活』という本がある。

鼻行類 (平凡社ライブラリー)

鼻行類 (平凡社ライブラリー)

これは架空の動物について書かれた虚構の話だ。しかし虚構であることがちょっと分からないように作られている。言わば知的楽しみとしての偽装といった感じの本である。内容だけ見れば動物学の本だ。このため動物学として分類している図書館が多い。だが、この本を9門の文学に分類する図書館はあるし、 そうした判断をしてはいけないとまで言えるかどうか*2。『鼻行類』は図書館では絶対に動物学として扱うべきだ、とまで言える司書はまずいないだろう。


また、こうしたフィクション以外ではタキオンパワーについての本という例もある。
タキオンとは物理学の世界で超光速で動くと仮定されている粒子であるが、このタキオンのエネルギー、パワーを封じ込めたと称するインチキ商品があり、その商品の宣伝本がいくつか出版されている。こうしたインチキタキオンの本に宇宙物理学や素粒子といった分類が付与されていることはほとんどない。内容は物理学を装っていても、実質は健康商品・開運商品の本であり、ほとんどの場合民間療法に分類されている。


こうした、何かを偽った、あるいは誤認させるテーマの資料の扱いは、個別に見て判断する他ない。何かを偽装した本というのは、テーマが複数ある場合もあり、そうした場合に学術的・科学的な通説に基づいて分類するということもある。
もちろん偽装かどうかという判断をせず、本が謳っているテーマをそのまま分類にするという考え方もあるだろう。

知識、科学リテラシーの問題もある

しかし以上のような例についても、資料のテーマをちゃんと理解した上で字義通りに分類する・意図的に分類を変えるといったように、検討の結果決まったものかどうかは疑問もある。
鼻行類』を動物学と分類した図書館は、この本がフィクションであると知った上であえて動物学にしたのか。
タキオンパワーの本を民間療法と分類した図書館は、そもそも物理学のタキオンについて知っていたのか。
ニセ科学の分類問題で俎上にあがった『水からの伝言』についても、この本がスピリチュアリズムをテーマとしている事を知らずに物質化学の水に分類している館もあるのではないだろうか。
内容を理解した上で決定しているなら、それはそれで一つの考え方だが、単に誤認しただけの可能性、他の組織の分類を真似ただけという可能性はある。

考えるきっかけとして

ニセ科学の本だから自然科学からはずす、という単純化した考え方の運動には反対だが、当初問題になった『水からの伝言』や『水は答えを知っている』といった本を「147 超心理学、心霊研究」とするのは一定の妥当性があると考えている。あの本の内容はスピリチュアリズムが中心だからだ。実際に読めば、本の主題が水の特性や写真ではなく、スピリチュアル・メッセージ部分であることは分かる。
以前私が書いた今こそホメオパシーの図書館分類を見直す時 - 火薬と鋼ホメオパシーの例もそうだが、より適した分類や件名があるにも関わらず誤認・誤解が定着してしまうこともある。ニセ科学のように誤認させる内容の本では、こうした問題は起こりやすいと考えていい。ただし、あくまで考えるきっかけであって、一律に変更するものではない。
ニセ科学の分類問題というのは、科学とニセ科学を切り分ける判断を図書館司書がするのではなく、資料の主題の検討をちゃんとしているかどうか、再確認するものとして意義があると思う。


<2013-02-09追記>
この件の分類変更に反対している人の意見を読むと、そもそも問題の本を読んでいないのではないかと思える。
この問題を追っていない人のために書くと、以前ニセ科学本として話題になった『水からの伝言』や『水は答えを知っている』といった本の図書館分類を自然科学領域ではなく「147 超心理学、心霊研究」に変更してもらう、という動きがあったので、その時の話が前提になっている。
問題の本は、タイトルを見ると水の本と考えて良さそうだが、水の本であるというより「波動」とそれによるスピリチュアルな内容を中心とした本でもある。この場合の「波動」は科学用語の波動ではなく、オカルト用語の波動である(両者は別物で、Wikipediaでも項目は別)。同様に江本勝『水が答えた「日本の宗教」』や『水が答えた「般若心経」』といった図書があるが、これらの国会図書館の書誌レコードの分類が水でも宗教でもなく147と記述されているのも、それが波動をテーマとしているからと考えられる。書名だけで判断すると誤る。
これは、沖浦和光『竹の民俗誌』(岩波書店、1991)という本を例に考えれば分かりやすい。この本は、国会図書館を含め多くの図書館で民俗学の中に分類されている。植物学の竹には分類されていない。要するに「竹」ではなく「〜の民俗誌」に当てはまる内容をテーマとして見ている。これと同じことで、『水からの伝言』や『水は答えを知っている』といった本も、「水」ではなく「〜からの伝言」「〜は答えを知っている」という部分に当てはまる内容がテーマと考えられるのだ(これは分かりやすくするための視点の例で、実際にはタイトルの語句だけでテーマを判断しているわけではない)。
ニセ科学を扱った本は科学用語のようでいて実態は違ったり、タイトルと内容が違ったりして、複数の分類可能性がある。どちらに分類するかは内容を理解して判断する必要がある。この件が話題になった当時、本を読んだ事がないのに分類に賛否を示す人がいたが、それは論外だ。

*1:分類法がそういう作りになっていない

*2:同様の例として架空の植物を解説したレオ・レオーニの『平行植物』がある。この本は大抵は文学に分類されている。

『キラー・フード』の情報を追って

今回は、ある本の記述の気になった点を追った経緯を書いてみる。
酵素栄養学」という、一種の民間療法がある。食品に含まれている酵素が健康に影響するという考え方に基づいている。酵素や栄養学といった一見科学っぽい用語を使っているが、実は科学的な検証を経たものではなく、信頼しがたい内容のものだ。(→wikipedia:酵素栄養学
この酵素栄養学の草分け的存在であるエドワード・ハウエルの著作の日本語訳『キラー・フード : あなたの寿命は「酵素」で決まる』(現代書林, 1999)で、おかしな部分があるというエントリをどらねこさんが書かれた。


みずまし - とらねこ日誌


「本書は20年かけて書き上げた約700ページにのぼる『酵素栄養学』の要約である。」とカバー著者略歴にあるのに、原著であるEnzyme nutritionは175ページしかないというのである。
これを読んで、本の記述に何か根拠があるのか調べてみようと思った。

日本語情報

まず、日本語版の情報を確認する。
本来なら出版社のサイトの情報を確認すべきだが、まず「キラー・フード ハウエル 700ページ」でGoogle検索。
すると同じ内容の説明がいくつかみつかった。
玄米食がよい理由|株式会社玄米酵素【公式】
レファレンス協同データベースで香川県立図書館の事例でも引用されている。
エドワード・ハウエル博士著「酵素栄養学」の日本語の本が欲しい | レファレンス協同データベース
当該図書の出版社は現代書林で、自費出版の会社である。出版社よりは翻訳者が記述した可能性が高いが、もともとの原著に同じ記述があるのかもしれない。なお、既に販売されなくなっているため、現代書林のサイトにはこの本の情報はなかった。

英語情報

700ページにのぼるという記述は英語では存在するのか。
これもまずは手軽にGoogle検索。「"enzyme nutrition" "700 pages"」で調べてみる。
するとあっさりGoogle Booksで1985年発行の原著の該当部分がみつかった。

Enzyme Nutrition: The Food Enzyme Concept - Edward Howell - Google ブックス
In 1946 he wrote The Status of Food Enzymes in Digestion and Metabolism, which has recently been reprinted. He then took more than 20 years to complete Enzyme Nutrition, of which this book is a published abridgment. The original is approximately 700 pages long and contains over 700 references to the world's scientific literature.

これにより、元の英語版の著者紹介で既に同じ記述があったことが分かる。
(最初に見た時は午前3時という時間のせいもあってか、 The Status of Food Enzymes in Digestion and MetabolismがオリジナルのEnzyme Nutritionの要約なのかと勘違いした)


では、この700ページのオリジナルは存在するのか。完全菜食主義やローフードダイエットに懐疑的なサイトBeyond Vegetarianism--Raw Food, Vegan, Fruitarian, Paleo Dietsでは、次のように書かれている。

Enzyme Nutrition, by Dr. Edward Howell (Avery Publishing, 1985). (Note: This version of Enzyme Nutrition is claimed to be an abridgement of an earlier book with the same title, said to be 700+ pages long. However, no one we have talked to who has mentioned it has actually been able to locate the book; nor have we, so far.)
(中略)
Two commonly encountered logical fallacies. In this debate, the supporters of Howell's theories engaged in two major logical fallacies that typify the kind of reasoning commonly offered in defense of his theories. First, when asked for credible evidence for the claims of Howell, his proponents asserted that such proof was in fact provided in the unabridged (rare, perhaps privately published) 700+ page version of Enzyme Nutrition, quotes and/or evidence from which no one was able to produce because no one had actually seen a copy.
(引用元 Do 'Food Enzymes' Enhance Digestive Efficiency, Longevity?

要するにハウエルの支持者は、ハウエルの主張のエビデンスは700ページを超えるというオリジナルのEnzyme Nutritionにあるというのだが、誰もそれを見たことがないというのだ。米国議会図書館などの蔵書データベースを検索したが、該当するようなオリジナルの存在は確認できなかった。、Enzyme Nutrition: The Food Enzyme Conceptのレビューでしばしばこのオリジナルについて"unpublished 700 pages book"と書かれていることから、出版されていないことになっているのかもしれない。
これでは、700ページを超えるというオリジナルが存在するかどうか怪しいと思える。
なお、Enzyme Nutrition: The Food Enzyme Conceptの裏表紙には"Enzyme Nutrition represents more than fifty years of research and experimentation by Dr. Howell. "とある。20年かけたオリジナルの話よりも年数が増え、「50年の研究と経験」という事になっているのだ。オリジナルからアップデートされたのだろうか。もしそうだとすると、少なくともアップデートされた部分のエビデンスは、古いオリジナルには存在しないはずだが。

まとめ

・『キラー・フード』の「20年かけて書き上げた約700ページにのぼる『酵素栄養学』の要約」という説明は、原著からある。
・ただし、その約700ページにのぼるオリジナルの『酵素栄養学』の存在をちゃんと確認した人間はいないようだ。

南極のピラミッドという定番のネタへのメモ

本来ピラミッドがないはずの地域にピラミッドがある−まるで『エイリアンVSプレデター』のような話だが、オカルトめいた話題が好きな人中心にこの種の記事が出回ることがある。最近またその手の記事が流れた。
この種の超古代文明といった話は、たまに追ってみると捏造や強引な解釈の作りこみの雑さに飽きてきて「もっと手の込んだネタを作れ」と言いたくなることがある。今回もそうだった。


南極大陸で古代ピラミッドが3つ発見される?(国際共同探検チーム) : カラパイア
マジか!? 南極で古代のピラミッドが3つも見つかったと研究チームが発表!! | ロケットニュース24


今回のこの件の出所は、たちが悪い捏造が多いサイトだ。前に話題にした400万年前の地層からみつかった機械という嘘ニュース - 火薬と鋼と出所は同じ。
今回のものは、2枚目の画像があっさり特定されている。


http://www.mountainguides.com/wordpress/2010/12/01/vinson-antarctica/vinson-team-at-camp-1-2/


元の画像は2010年、南極大陸最高峰のヴィンソン・マシフを登山したチームによる写真。
参考に近い角度からの写真も紹介しておく。


Summit Day: South Pole Expedition | Sultan of Snow's Blog
Vinson Dispatch: December 8, 2010 – Off to the Summit We Go


3枚のうち1枚の出所が特定されたことで、研究チームの発見だの発表だのといった話がまるっきりの嘘だったことが明らかになっている。
他の写真の出所は特定されていないが、1枚目の写真は2枚目の峰の別角度の写真のようだし、3枚目が自然の造形という可能性も高いだろう(海外ではフェイクだという人もいた)。
「南極でピラミッド発見」は何度も繰り返された定番の嘘ニュースで、もうニュースタイトルを見ただけでフェイクだと思っていいニュースだ。

周回遅れの終末ネタ・2029年小惑星衝突

Voice Of Russiaで2029年、地球に小惑星が衝突するという記事が掲載された。

http://japanese.ruvr.ru/2012_09_03/seikimatsu-2029/
世紀末の正確な日時が発表された。2029年4月13日グリニッジ標準時で午前4時36分。6万5000個の原子爆弾と同等のエネルギーを持つ、直径320メートル、重さ5000万トンの小惑星が融けながら月の軌道を横切り、時速4万5000キロの速さで地球へと突入する。



世紀末というよりは終末ではないかと思うが…。
この記事がまたいくつかのまとめサイトで扱われている。
しかし、この記事の内容は今となっては適切なものとは言えない。単純に言って周回遅れの内容なので、解説しておこう。


この記事に書かれている小惑星とは、アポフィスのことである。質量等の数字に違いはあるが、まず間違いない。
なぜわかるかと言うと、この小惑星が衝突する/しないというのは、過去に何度か報道されたから予測された年や日付から分かるのだ。この小惑星についてはWikipediaにも記載されている。


参考:wikipedia:アポフィス (小惑星)
衝突の危険性について99942 Apophis (2004 MN4)



2004年にこの小惑星が発見された後、同じ年にNASAが地球への衝突の可能性が高いことを発表した。そこで公表された衝突が予測される日付が2029年4月13日なのだ。
衝突する確率はその後の観測に基づいて何度か修正されて報じられ、2004年12月24日の2度目発表ではトリノスケール(地球近傍天体が地球に衝突する確率及び衝突した際の予測被害状況を表す尺度)が4にまで引き上げられた。この4という尺度は、接近距離が近く、天文学者が注意する必要があるレベルの一つで、小惑星としてこの数値が与えられるのは初のことだった。


参考:wikipedia:トリノスケール


その後の観測・再計算によってこの衝突の可能性は修正され、2029年には衝突しないこと、その後も衝突の可能性が低いことが公表されている。トリノスケールも観測結果を元に次第に引き下げられ、現在では0になっている。


しかしそんな観測や研究結果はさておいて、終末が好きな新興宗教やオカルト界隈は盛り上がった。
2005年7月19日にエジプト神話の闇と混沌を象徴する悪神に由来する「アポフィス」(99942 Apophis)という名称がつけられたことも拍車をかけた。この名前は悪神というだけでなく、「アポカリプス」(黙示)にも似ているからだ。
おかげでこの小惑星の衝突の可能性がない、低いと報じられた後も、世界の終末と関連づけられて様々なオカルト分野で利用されることとなった。オカルト分野では2012年終末説というものがあるが、それがあまりに近すぎて将来のネタも必要だという事情もあるのだろう。
今回の報道は別にオカルトというわけではないが、情報の内容が古く、あてにならない。
なお、この小惑星が地球に接近する年は他にもあり、早くもそちらの年を人類滅亡と関連づけている気の早い人間もいる(例えば2036年)。アポフィス含め、地球に近い天体について衝突可能性を含めて今後も研究や観測は行われるが、それとは全く別の領域で小惑星が滅亡論の種に使われ続けるのは間違いないだろう。

400万年前の地層からみつかった機械という嘘ニュース

あまりにネタがひどいものが多いのでこの手の話はあまり紹介しないのだが、今回は目に付いたので書いておく。
http://news.livedoor.com/article/detail/6361446/?utm_source=m_news&utm_medium=rd
http://www.thetruthbehindthescenes.org/2012/03/09/400-million-year-old-machine-found-in-russia/?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+TheTruthBehindTheScenes%2FihiN+%28THE+TRUTH+BEHIND+THE+SCENES%29  元記事
こんな話があった。2chまとめサイトにもいくつか上がっている。
さすがにこのレベルの話となると、『ムー』を楽しめる(信じるかどうかは別として)人ではないとついていけない話だろう。それにしてもこれは程度の悪い嘘ニュースだ。この手の嘘ニュースとしてもあまり巧妙とは言えないが、少なくともこの秒刊サンデーの記者は分かった上で書いている。


・400万年前
記事参照で分かるとおり、原文では"400 Million Year Old Machine Found in Russia"となっている。400万年ではなく4億年だ。嘘以前の問題。
・宇宙人?
もし歯車が過去の地層からみつかったら混入を疑うのが先ではないかな。この記事最後の微妙に揶揄するような文章から、秒刊サンデーの記者は分かっていて書いているのだろうが。
・歯車?
そもそもこれが歯車に見えるだろうか? 違うものの化石に見える。
元記事のコメント欄でも早々にウミユリの化石ではないかとの指摘があった。
これは海外で確認されており、この記事で使われた棘皮動物の化石の元画像が特定されている。→Category:Laudonomphalus - Wikimedia Commons
・考古学者
元記事には考古学者の情報が載っているが(サンクトペテルブルク大学、Yuri Golubev)、その存在が確認されていない。

ファラデーもベンジャミン・フランクリンもそんな事は言ってない

はやぶさ2について、松浦氏のブログに今後の計画が危ぶまれている現状についてのエントリが掲載された。


はやぶさ2、予算の危機について: 松浦晋也のL/D


JAXA内ではこの件がどのような認識になっているのかも気になるところだ。
はやぶさ2の継続は私も希望しているが、この記事に気になる部分があった。

ファラデーの逸話(野田篤司 (@madnoda) on Twitter)
ファラデーの逸話『「磁石を使ってほんの一瞬電気を流してみたところで、それがいったい何の役に立つのか」と問いかけた政治家に対し、「20年もたてば、あなたがたは電気に税金をかけるようになるでしょう」とファラデーは答えたという』出典元:電気史偉人辞典



この話、何かに似ていないだろうか。
かつて事業仕分けの批判で引用された、ベンジャミン・フランクリンの逸話である。

あのときの事業仕分け人に教えるべき、昔の偉人の回答
ベンジャミン・フランクリン は電気の研究がどんな役に立つのかと、ある婦人に尋ねられた。
答えは、「おくさま、生まれたての赤ん坊は何の役にたちましょうか。」
引用:機械の中の幽霊 p183 胚の戦略



これらの逸話の共通点は、まだ用途・成果が判然としていない科学技術について、価値を認識できない一般市民と将来の可能性を説く科学者という構図で成り立っているところだ。後世の我々は、その後の電気の発展と重要性を知っているからこうしたエピソードに感銘を受けるわけだが、当時専門家でもそこまでの将来性を考えられたかどうか疑わしい。
もちろん未知の分野を研究する意義はあるわけだが、これらの逸話は後に実現された「将来の実用性」という前提部分にかなり重点が置かれており、そこがこれらの話のうさんくささでもある*1
そして、よく似た逸話が二つある時点で、実話かどうかを疑うのも当然だろう。


とうに知っている人もいるだろうが、ファラデーの逸話もベンジャミン・フランクリンの逸話も、どちらも作り話、都市伝説である。
ファラデーの逸話についてはFACT CHECK: Michael Faraday 'Tax' Quoteベンジャミン・フランクリンの逸話についてはRedirect to Lockhaven.eduに根拠がないことが解説されている。いずれの逸話も当人の記録や信頼できる情報源に掲載されておらず、後世の創作と考えられている。


現代の問題について、何かの権威を借りようとこういう逸話を持ち出す際にはその話の信憑性や背景に注意が必要である。科学研究の意義を訴えるのにこのエピソードを持ち出すのは良いことだとは思えない。

*1:この話、偉大な科学者の言葉、後世の電気の重要性という前提がなければこんな説得力のない言葉はない。これらの作り話の中の科学者の言葉は、研究の意義について本当は何も語っていない空虚なものである。