身土不二のやりたい放題

最近マクロビオティックに関して懐疑的・批判的なブログのエントリやはてなブックマークのコメントが見られるようになった。しかし実際マクロビの活動家がどのような主張をしているかは案外知られていないようだ。そこで今回はマクロビの重要な理念である身土不二の実態について紹介する。


なお、あわせてどらねこさんがマクロビの身土不二について批判的に記した
身土不二と地産地消ってどう違うの? - とらねこ日誌
身土不二と健康問題 - とらねこ日誌

以上のエントリもお勧めしておく。
(注:リンク先記事再編集に伴い2013-2-7にリンク変更)

マクロビの身土不二は伝統でも地域でもない

身土不二は本来「地元の旬の食品や伝統食が身体に良い」という理念だが、実際は伝統や地域というものを取捨選択、時には改変している。その結果、伝統や地域とはもはや呼べないものになっている。
さて、皆さんは「地元」と聞いてどのくらいの範囲を想像するだろうか。都道府県か、その近隣の自治体レベルの範囲を想定する人が多いのではないだろうか。この「地元」について、アメリカのマクロビで指定している範囲は、半径500マイル(約805km)としていることが多く*1、イギリスのマクロビでは半径300マイル(483km)という記事*2がある。
欧米のマクロビオティックではこの半径483〜805kmをlocalの範囲としているの通例だ。この範囲は、「地域」「地元」といった言葉から受ける印象よりもはるかに広大だろう。
更にマクロビについて書かれた本を読んでみると、食品によって食べてもいい距離が違っていることさえあるのだ。
例えば、『久司道夫のマクロビオティック 入門編』では食品の陰陽によって食べるのに適した距離範囲が違うとされており、野菜類は範囲が狭く、穀類はそれより範囲が広い。一番範囲が広いのは塩で、日本に住んでいる人間は北半球でとれた塩ならいいとされている。これは、北半球と南半球で海流が違い、塩の結晶も違うのが理由とされている。もちろんこうした主張を裏付ける調査研究があるわけではない。
このように、マクロビの身土不二の運用は、伝統とも地域とも違う、独自の判定による取捨選択なのである。そもそもマクロビでは食品を陰陽に分けて考えるが、これがまさに科学以前の思考法に基づいた区分だ。なお、酸性食品アルカリ性食品という区分もマクロビで盛んに言われていたが、現在ではこの考えがあまり受け入れられなくなったので、マクロビ本でもなりを潜めている(よく見ると残っているが)。

マクロビの身土不二地産地消ではない

フードマイレージスローフード、食育といった観点から地産地消が注目されている。
この地産地消身土不二が同じ、あるいは似たもののように考えている人が多いが、実際はそうではない。
本来の地産地消とは、伝統的な日本の食事では塩分過多や栄養のバランスに問題があるため、バランスの取れた食事を地域の自給で満たせるように農産物を改めていくことである(地産地消 - Wikipediaなどが参考になる)。
つまり地産地消は、日本型伝統食の否定を起源としているものなのだ。マクロビと本来の地産地消では全く噛みあわないことが分かるだろう*3
また、地産地消とは、「地域」の捉え方がだいぶ違っている。地産地消でいう地域とは、都道府県、自治体のことだからである。近年の地産地消では、栄養のバランスという側面は軽視され、とにかく地域の生産物の消費が重視されるようになった。だが、マクロビは、伝統の食事というより伝統から取捨選択や改変した独自の食事であり、地場産品による食事とは一致しないことが多い。特にマクロビでは魚を食べないことからもかなり地産地消と合致しない。こうした混同や齟齬を無視し、同一化されていることもマクロビの敷居を下げているのではないだろうか。

お勧め本

現在、マクロビはその問題点を知られない・批判されないまま普及している。この分野に興味がある人は、図書館に大抵マクロビ関連本があるので一読をお勧めする。私がお勧めするのは、今回も参考にしたこの2冊だ。あえてリンクはしない。マクロビには久司マクロビ以外にも色々あるが、著名人と言えばこの人だろう。



2001年にたま出版から新装版が出ている。マクロビそのものよりも「マクロビ論者の世界観」が分かる本。電子レンジのマイクロ波有害論から生物学的原子転換、波動、霊体、エセ医学など疑似科学・オカルトが目白押し。内容はありふれた疑似科学・オカルトだが、食を中心としているのが独特である。ニワトリを食うと手足がニワトリのようになる、とか日本人は魚を食うから魚顔になる、とか凄いことが書いてある。食から教育、産業、社会にまで及ぶトンデモ言説は、人格や社会が食事で正される、という食育の一側面に通じるものがある。



こちらはインチキ栄養学としてのマクロビを知りたい人にお勧め。ほくろやソバカスは悪い食物の燃えカスだ、とか色々と凄い発想が書かれている。マクロビの本家本元・桜沢如一の陰陽論にはない「中庸」を思いついた点が久司の独自性と言えるが、これも「陰陽
」と同じく恣意的・主観的な区分である。食事から世界平和や良い対人関係が達成されるというような肥大したイメージは前掲の本と同じ。マクロビの主張の一例を知りたいならまずはこの一冊で十分だろう。

*1:The Macrobiotic Path and The Macrobiotic Lifeなど

*2:http://macrobiotics.co.uk/articles/eatinggreen.htmなど

*3:『久司道夫のマクロビオティック 入門編』によると、マクロビの食事なら血管が柔軟になるので塩分が多い日本型伝統食でも問題ない、とある。