クライマー事件の概要(1)

 図書館とホームレス問題の先行事例について - 火薬と鋼に書いたクライマー事件に関して、案外Webではちゃんと紹介しているところがないので概要を書いておこうと思う。
 この問題に限った話ではないが、ブログやニュースで採り上げられる図書館関係の問題は、だいたい過去に似た事例があったり先行研究があったりする。特に図書館関係のブログ書いてる人間は、もっと文献を提示すべきだと思う。大学で先行研究をよく調べろと教わらなかったか?先人の蓄積を無駄にするな。

背景

 1980年代、アメリカではレーガン政権下でホームレスの増加が問題となっていた。ホームレス支援法(McKinney–Vento Homeless Assistance Act - Wikipedia)もこの時代に生まれている。図書館界でもこうした状況を反映して公共図書館におけるホームレスを対象とした活動や研究が進むようになっていった。例えばSimmonsは図書館が各種機関と連携してホームレスに対するサービスを行うことを提唱した*1。図書館がホームレスの問題に関わるべきではないという考えも図書館界に存在していたが、少数派であったとされている*2
 この時代からアメリカの公共図書館におけるホームレス支援のサービスは様々なかたちで発展していった。ホームレス用に特別室を設け、ソファーやテレビ、コーヒー、福祉関係の資料を提供した図書館もある*3。また福祉施設、シェルターへのアウトリーチサービスを行う例もあり、どの程度までホームレス向けサービスを行うかは図書館によってかなりの差異があった。こうした差異がある点は現在でも変わらない。代表的なサービスは、医療機関、福祉機関、警察、教会、民間団体のシェルターなどと連携し、ホームレス向けに娯楽や情報の提供を行うものである*4
 そしてホームレスの増加に伴い、ホームレスの利用(これは単に滞在するだけのものも含む)に不快感を示したり、あるいは問題視したりする反応(利用者、職員双方による)も生じてきた。しかし経済状況や身なりで図書館利用を制限するのは困難である。そこで、利用者行動に規則を定めてホームレスの利用を制限しようとする図書館が出てきた。クライマー事件の舞台となったモリスタウン図書館も行動規則を定めた図書館の一つである。
→"クライマー事件の概要(2) - 火薬と鋼"

*1:Simmons, Randall C. The Homeless in the Public Library: Implications for Access to Libraries. RQ. 1985, vol.25, no.1, p.110-120.

*2:川崎良孝. 図書館の自由とは何か : アメリカの事例と実践. 教育史料出版会, 1996, 235p.

*3:CURRENTS; At Library, a Room for the Homeless - The New York Times

*4:Silver -Libraries and the Homeless: Caregivers or Enforcers