戦場にかける斧

 兵士がどのような刃物を持っているか、その実態はかなり狭い範囲でしか知られていない。例えば大型ナイフを兵士全員が持っているかのように思われていることがあるが、実際には支給もされなければ携行もしていない兵士はかなり多数存在する(拳銃についても然り)。逆に支給されているのに知られていない装備というのも存在する。
 今回取り上げる斧もそうした装備の一つだ。日本の軍オタは塹壕戦のスコップは高く評価する一方、軍で使われてきた斧の存在すら知らないことが多い。
 2007年の記事Some U.S. Troops Choose Historic Tomahawk - ABC Newsと自分の知識を元に、米軍の斧について紹介しよう。
 ナイフの話じゃないが、とりあえずカテゴリはナイフにする*1

軍用トマホークの歴史

 米軍では、もともと第二次世界大戦中からトマホークを使用する兵士がいた(作業用の斧はもちろん別に古くからあった)。トマホークとはアメリカ原住民が使用していた小型の手斧の一種で、道具兼武器として広く使われていた。
 朝鮮戦争時には刃の反対側にスパイクをつけた手斧が使われ、ベトナム戦争ではPeter LaGanaがデザインしたトマホークが兵士によって使用された。Peter LaGanaは第二次世界大戦中は海兵隊隊員として活動しており、その経験を活かして伝統的なトマホークのデザインをアップデートしたトマホークを作り上げた。
 現在、Cold Steel社が製造販売しているVietnam Tomahawk(http://www.coldsteel.com/vito.html)はこの当時のトマホークを再現したものだ。角ばったスパイクを持ったこのトマホークは1966年から70年にかけて4000個ほど兵士に売られたとされている。このトマホークの使用法は、叩き切る、投げるの二種を基本とし、単純な動作だけでなく格闘技術も研究された。
 しかしベトナム戦争後、軍用トマホークは一部の愛好者*2や兵士を除いて忘れられた存在となった。

アフガン、イラク戦争で蘇ったトマホーク

 斧が再び実戦用の武器として脚光を浴びるようになったのは2000年代に入ってからのことだ。
 まず2000年11月、投げナイフ・投げ斧のAndy PriscoがPeter LaGanaに新しいトマホークの製品化の話を持ちかけた。こうして2001年に生まれた会社がAMERICAN TOMAHAWK COMPANYである。
 同社は伝統的なトマホークのスタイルを継承しつつも樹脂製の柄を備えた新しいトマホークを作った。
 このトマホークLaGana Tactical Tomahawk “VTAC”は、ちょうど始まったアフガニスタンイラクにおける戦場の武器・工具として有用ではないかと注目されるようになった。この時期の戦争では、市街地における近接戦闘の武器やドアを破壊するツールが求められていたからだ。
 VTACは米軍のSoldier Enhancement Program (SEP)によってスコップなどと同じエントレンチング・ツール(塹壕用工具)として評価された。工具としてだけでなく近接戦闘用の武器としても高い評価を与える兵士もいる。この結果、同社のトマホーク"VTAC"は軍に採用され、いくつかの部隊に武器や工具として支給されるようになった。NSN (National Stock Number、米国備品番号)も付与されている。
 ただし、トマホークを武器や工具として評価しない兵士もいるし、任務・所属によって必要の度合いは変わるだろう。
 現在ではAmerican Tomahawk Company以外にもいくつものファクトリーやカスタムメーカーが軍用のための斧を製造・販売している。また、軍向けに格闘技を教えている流派でもトマホークを使った技術の研究や訓練が進んでいる。

*1:後にEdged weaponカテゴリを作成したので変更

*2:ベトナム戦争当時のトマホークは海外で高値で取引されている。