図書館分類の実際とニセ科学問題

 http://d.hatena.ne.jp/yukitanuki/20090522/p2こちらのエントリで本の分類について疑問があげられていた。
 分類については以前図書館とニセ科学と過去の誤謬 - 火薬と鋼で少し触れたが、今回はもうちょっと実務に即して解説していこう。

図書館の分類と本屋の配置

 日本の図書館は、日本十進分類法(NDC)に基づいて分類を付与している。
 本のテーマ(主題)や形式に該当する番号や付与方法はNDCの本(最新版は『日本十進分類法 新訂9版』本表編と一般補助表・相関索引編の2冊セット)に詳しく記載されている。
 図書館の分類は、物凄く単純化して言えば「似た内容の本が近くに置かれていると便利だ」という考えに基づいていると思っていい。
 この分類は、古くは博物学(東洋では本草学)や辞書・事典、学問の専門分野の区分に基づいて生まれた。
 このため、一般の人には分かりにくい分類になっている分野もあるし、頻繁に改訂・追加しているわけではないので、新しい分野に対応できていないこともある。
 こうした図書館の分類に対して、書店の配置は出版社やレーベル、外観や売れ行きを重視している。
 もちろんある程度テーマに分かれているが、図書館よりもかなり大雑把なもので*1、学問的な区分とも異なっている。

図書館のデータと分類作業

 図書館では本を購入したら、皆NDCの本を見ながら分類をつけているのかというと、そうではない。
 実際には、本のデータ(書誌データという)に既に分類がついているのである。
 ほとんどの図書館では、蔵書をコンピュータで検索できるようになっている。
 あの検索システムで扱う本に関するデータ(書名・著者名・出版情報など)は、ほとんど外部の機関が作ったものなのだ。
 日本の出版物に関する目録データベースには以下の3つがある。
(1)JAPAN MARC―国立国会図書館(実際には委託の民間業者)が作成。国会図書館の図書館システムはこれが元。
(2)TRC MARC―取次の図書館流通センター(TRC)が作成。公共図書館の図書館システムはこれが元。
(3)NACSIS CAT―国立情報学研究所(NII)が管理。NIIや参加組織(大学・研究機関)が作成。大学図書館・研究所図書館の図書館システムはこれが元。
 MARC(マーク)とは機械可読目録(MAchine Readable Cataloging)で、コンピュータ上で扱う目録のことだ。
 上記の三つのMARCは用途が異なるが、図書館システムを介してオンラインで互いに検索したりデータを流用したりできる*2
 図書館は、こうした機関が付与した分類に依存している*3
 個々の図書館でも独自の決まりや事情があり、MARCと違う分類にする場合もあるが*4、これまでウェブで問題になった図書の例(例えば『水からの伝言』や類書)は、元となったMARCについている分類に原因がある。
 一般に図書館で分類を付与する作業者は*5、MARCについている分類を元に分類を付与する。
 図書館の要求や書架事情、過去の蓄積からこうした単純作業では済まないこともあるが、本の内容を見なくても分類をつけることは、かなりの割合で可能なのだ。
 ただし、チェックしたとしても適切な判断ができないことはある。

「適切な分類」はつけられるか

 目録作成機関にしろ、個々の図書館にしろ、図書館の分類はほとんどが書名からつけられる。
 著者や内容を確認することもあるが、それにしてもニセ科学のような、何かを装ったものを正確に判断する(あるいは判断したとして、どこに分類するか)のは容易ではない。
 図書館の世界の人間はほとんど全て文系人間で、理系的な分野に関する知識が少ないことが多い。
 そうした人々が、タイトルや本の一部のような限られた情報から本の分類を決定すると、おかしなことになることもある*6
 また、その種の本に適した分類がNDC上にないことも多いのだ。
 疑似科学など懐疑主義の対象になる本やサブカルチャーの本に対応した分類は、ないことが多い。
 そして、ニセ科学をオカルトと分類するような行為は、時として本の内容の正否判断を図書館が積極的に行うことにもなるが、この点にも議論があるだろう。
 図書館は情報提供を行うが、情報の判断は利用者が行うべきことだからだ(これも程度・内容による。図書館が何も判断しないということはない。)。
 図書館の分類に対して変更を求められるのは「現在の分類より適切な分類があるもの」だけである。
 現状に不満があったとしても、「より適切な分類」というのが無いこともあるということは、覚えておいてほしい。

*1:図書館でもレーベルを重視することはあるし、公共図書館は比較的分類を大雑把にしていることがある。

*2:特にNACSIS CATのデータの多くはJAPAN MARCやTRC MARCから流用して作られている。逆にNACSIS CATがほかに流用されることも一部ある。

*3:MARC以外にも例はある。図書館が選書・購入の際にしばしば利用する『ウィークリー出版情報』(取次の日販が発行)にもNDC分類は付与されている。紀伊国屋書店のBookwebのように書店のデータについている例、平凡社のように分類を本に印刷した出版社の例もある。

*4:例えば文庫や新書を統一的な分類にして一箇所に置くか、それとも一冊一冊の内容に合わせて分類を変え、バラバラに置くかは図書館によって違う。

*5:図書館内でこうした業務が行われるとは限らない。外部で業者が書店・出版社の本に対して作業して、作業済みのものを納品することもある

*6:限られた知識・情報源から判断する危うさの例として、『鼻行類』を487(脊椎動物)など動物の本として分類している図書館が多いことがあげられる。