なぜソマリア海賊狩りツアーを疑ったか

 ソマリア海賊狩りツアーはデマか - 火薬と鋼の補足。


 仕事が忙しくてあまりネットにつないでいなかったが、想像以上に反響があった。
 それにしても驚いたのは、あのニュースを信じた人の多さである。
 信じた理由は国民性・民族性への先入観、偏見といったものもあるだろうが、この種の情報に対する知識とそれに基づく想像の問題もあるのではないだろうか。
 私もいつでもニュースの追跡をしているわけではなく、今回は特に気になった部分があったので後を追った。
 自分がどのように考えたのか、書き残しておこうと思う。


 このニュースを読んでまず考えたのはリスクの問題だ。
 こちらが射殺できる距離で武装した相手と戦うということは、相手もこちらを射殺できるということである。
 ツアーの船は民間の船で、軍用の艦艇ではないし、武装も海賊より優れているわけではない。
 ロケットニュース24の記事では「このツアーに参加した富豪たちや旅行代理店が用意した武器のほうが数倍強力で、殺傷能力も強いのです」としているが、英語圏で広まったニュースで紹介された武装は、小銃、RPGアンチマテリアルライフルなど個人用の火器で、海賊を一方的に殺せるようなものではない。
 海賊の武装は小銃やRPGなどが多く*1、ほとんど差はないと言っていいだろう。
 しかもツアー参加者は素人である。
 特殊部隊が護衛につくという記述も海外ニュースにあったが、護衛がいても別に盾にはなってくれないだろう。
 しかもちゃんと訓練を受けたことがない参加客では誤射・暴発の可能性もある。
 あるいはRPGのバックブラストにほかの客や護衛が巻き込まれたら目も当てられない惨事だ。
 要するにこのツアーには素人が軍事作戦に参加するのと同じ程度の危険があると考えられる。
 以上のようなリスクに対処するのは容易ではないし、保険会社もつかないだろう。
 あのニュースを見てあっさり信じた人、特にツアーを称揚した人は、武器があれば海賊ごとき一方的に殺せる、一般人は怪我ひとつしないと考えられる人である。
 しかしそんなに都合の良い話は無理がある。
 それと、殺してしまうより逮捕して情報を得た方が良いと思うのだが、なんで「悪人は即殺せ」以外の発想がないポール・カージーのような人がこんなにいるんだろうね。
 俺はそんなに人を信用していないので、仮にリスクが無かったとしてもツアー参加者側が海賊に関係ない人間を殺しかねないことを心配するが。


 そもそも海賊の行動を予測できなければ無駄足になるわけで、想定通りに引っ掛かってくれるのかという疑問もある。
 こうしたツアーの存在が知られた場合、逆にツアー側が罠にはめられる危険性も出てくる。
 何しろ金持ちが客だから、うまく人質にできればかなりの資金源になるだろう。
 これも一種のリスクだ。
 大体、このツアーのように偽装した民間船で海賊に一方的に対処できるなら、ソマリアの海賊対策は簡単に済んでいるはずではないか?


 以上のような思考から、疑わしいと思ってニュースの反応や元ニュースを追っていた。
 それにしてもあのニュースに否定的なエントリがいくつも出ている今になっても元ニュースを信じる反応があるのだから、都市伝説(というかネット伝説)はつくづく厄介なものだと思う。
(追記)
 ポール・カージー知らない人がいるようなので説明しておこう。
 よく考えると知らない人のほうが普通だ。
 ポール・カージーチャールズ・ブロンソン演じる映画「狼よさらば」(Death Wish)シリーズの主人公。
 当初は家族を殺された男が犯罪者に復讐する映画だったが、シリーズが進むと犯罪者を無造作に殺すB級映画になった。
 お勧めは「スーパーマグナム」。こちらの紹介が分かりやすい→http://members.at.infoseek.co.jp/colt/eiga02.htm

*1:もちろんそれ以上の武装の例もある。軽機関銃重機関銃・小口径の砲も想定したほうがいい。