大学図書館と公共図書館の相互協力

 今回もTwitterのまとめから。
 公共図書館と大学図書館におけるILLの疑問 - Togetter
 大学図書館は、他の大学図書館との間で雑誌記事のコピーや本の貸借を行う。
 これをILL(Inter Library Loan)と呼ぶ。
 本そのもののやりとりよりも雑誌記事(ほとんどは論文)の複写を頼むことが多い。
 大学図書館の相互協力について、ILLを中心に書いてみよう。

サービスの内容

 大学図書館のILLサービスは、意外と一般に知られていない。
 送料やコピー代(一枚30円以上が普通で、50円、60円以上のところもある)などもあって、それなりにハードルがある。
 図書館員の側も、ILLを利用するシステムの操作、そしてILL業務に特有のスキル、経験が求められる。
 この業務の厄介なところは、「金がかかる」という点が最も大きい。
 支払い関係の問題が結構起きるし、金が絡むだけに経理とも業務が関わる。
 また、図書館同士といっても他機関なので、コミュニケーションや情報検索の敷居も高くなりがちだ。
 各大学図書館は相互協力のための規約をそれぞれ公開しているのだが、これがややこしいのもこの業務の難しさにつながっている。
 

 大学図書館の場合、国立情報学研究所(NII)が運営しているNACSIS-ILLを利用してILLサービスを行うのが普通だ。
 NACSIS-ILLを使うと加盟している図書館(大学以外も一部含まれる)が持っている資料が確認でき、システムを介して申し込みの依頼・受付や情報の管理・やりとりができる。

大学以外の図書館とのやり取り

 上述のように大学図書館でなくともNACSIS-ILLに加盟している組織とのやり取りはある。
 しかし公共図書館はNACSIS-ILLに加盟するところは通常はない。
 これには理由がある。
 単純に言えば、設置機関とサービス内容の違いによる。
 公共図書館の相互協力は、自治体内・自治体間の協力によるもので、多くは無料だ。
 対して大学図書館の相互協力は、NIIを軸とし、全国一律のシステムに則ったもので有料だ。
 そして行政組織の一つである公共図書館は、独立行政法人であるNIIと連携しないというセクショナリズムが厳然とある。
 また、大学図書館にも公共図書館との連携をあまり好まない人々がいる。


 ちょっと違う話だが、こんな経験がある。
 私がある大学図書館でILL業務を担当していた際、利用者の希望している資料が大学図書館にはなく、国会図書館にしかないことがあった。
 国会図書館に依頼するか、ベテランの職員に相談したところ
大学図書館大学図書館同士で相互協力するものだ」
 と言って国会図書館への申し込みに否定的であった。
 ILLサービスが未成熟の時代に互いの負担を慮ることもあってこういった傾向があったのだろうが、頼れる大学図書館がない状態でそんな事を言ってどうするのかと思ったものだ。


 理念としても実態としても、NII運営のサービスは「図書館同士が互いに負担しあうことで個々の負担を減らす・サービスを充実させる」というところがある。
 大学図書館は、相身互いとでも言うべき関係にあり、相互負担とそれに対する理解が存在する。
 例えば、相互協力で雑誌の複写を申し込む際も、一つの図書館に同時に多数の依頼をしないといった配慮がある。
 (利用しやすい条件(安価な料金など)の大学には特に依頼が集中しやすいため、その点も考慮している)
 利用者のことを考えれば(料金や入手速度の点で)一箇所に申し込んだほうが良い場合でもわざわざ分けることがあるのだ。
 こういった点が、全くサービス内容が異なる公共図書館大学図書館の間で理解されるだろうか。
 しかし同じNII運営のNACSIS-CATに加盟している公共図書館は存在するし、NACSIS-ILLを利用する公共図書館も一部存在する。
 NACSIS-ILLを利用した公共図書館は下の統計で確認できる。
 目録所在情報サービス │ ドキュメント │ NACSIS-ILL統計情報 │ 利用機関
 だから、大学図書館公共図書館の相互協力も全く先行きが無い話でもないと思う。
 また、NACSIS-ILLシステムを使わずに個々の公共図書館が各種情報の確認・連絡を行って大学図書館と相互協力をすることはある。


 そして恐らく最大のネックは、公共図書館の側にILLサービスや案内状の発行など大学図書館との相互協力の蓄積が少ないことだ(場所によっては公共図書館同士の相互協力の業務も少ないところがある)。
 特にILLのように金銭が絡む*1大学図書館のサービスを利用するのに必要な人材もそれに対応したシステムもなく、公共図書館側の努力や一部大学図書館の方針によって対応がなされている。
 Twitterのほうでも言及があったが、公共図書館は無償サービスが建前で(館内のコピー機は有料なのだが…)、そもそも金がかかるサービスに参加したがらないという傾向もあるようだ。
 現状では地域規模での連携や、個々の図書館がよく調査して申し込みを行うといった特定の場合にだけ公共図書館大学図書館の相互協力が成り立っている。

*1:しかも同じコピーを頼むのでも申し込み先によって料金体系が変わってしまうようなサービスだ。そんなサービスは従来の公共図書館のサービスには存在しない。