Bootleg vol.1 DYNAMITE!を読む

 先日は文学フリーマーケットに行き、映画評の同人誌、Bootleg vol.1を買ってきた。
 黒人映画特集ということで、前回と変わって大きなテーマを設けたのが最大の変化だ。
 また、深町秋生速水健朗という強烈な二人の書き手も加わった。
 以下、各記事の感想を。

ブラック・ムービー・クロニクル 〜クロすぎるヤツらたち〜

 侍功夫さんによる黒人映画史紹介。
 黒人が登場する映画をその文化、政治的背景と絡めて概観した内容で、短いながらも各時代の代表的な黒人映画が分かりやすく並べられている。
 前半は映画そのものの説明が短いので、多少映画を知っている人向き・あるいはここから自分で調べる人向きと感じた。
 後半、より詳しく映画紹介をするのだが、基本を抑えながらも独特の取りあげ方をしている。
 「ブラック・シャンプー」の主人公の容貌を評して「たごさくどん」とするのはこの人ならではだろう。
 各年代の多様な映画を渉猟しながらもブラックスプロイテーション映画の存在をうまくまとめてしまうのはさすがだ。

黒人バイオレンス〜秩序の破壊と野獣性〜

 深町秋生さんによる黒人映画のバイオレンスをその背景とともに解説した記事。
 記事タイトルで紋切り型手垢ステロタイプ - 深町秋生の序二段日記を思い出したのは私だけではないはず。
 一種紋切り型とも言える黒人の野獣性はどのように描かれてきたのか?
 落合信彦の著述、極真のウィリー、格闘技のボブ・サップに至るまで、映画以外の分野での暴力性の描写を含め、期待された黒人のバイオレンス性について追っている。
 この記事を読むとつくづく平松伸二の漫画の黒人は典型的な黒人の野獣性の描写だよなあと思う。

出張!とかくめも 〜ざっくり4色世界の美女〜

 永岡ひとみさんによる各人種(黒人・白人・アジア人・人外)の美女のイラストと短い評。
 今回も清涼剤としての役割を果たしている。
 こうして見ると永岡さんの描く美女はセクシーだと思う。しかしアジア人の絵が全般に似ていない…。

DVM〜ダニー・グローバーvsモーガン・フリーマン

 とみさわ昭仁さんによる2大黒人俳優ダニー・グローバーモーガン・フリーマンについての記事。
 今回のテーマから誰かは言及するだろうと思っていたこの二人の俳優。
 演じるキャラクターの違いから二人を対照的なものとして解説している。
 しかしオチはダジャレ。

日本映画の黒人とハーフたち

 真魚八重子さんによる日本映画に登場した黒人・黒人ハーフ俳優についてのミニコラム。
 日本映画の黒人の扱いについてはやはりこの人が書くべき記事だと感じた。
 ジョー山中とケン・サンダースは印象に残っているなあ…。

潜入!マイアミバイス〜楽園都市に潜む高度消費社会の闇を撃て!! 〜

 速水健朗さんによるTVドラマ「マイアミ・バイス」とその社会・地域背景についての記事。
 消費社会、MTVを受け、ヒスパニックの台頭を背景とした白人・黒人コンビの顛末。
 リメイク版にも言及し、マイアミバイスの核となる部分を切り出した良記事。

エボニーinアイボリー〜白人映画の中の黒人たち〜

 破壊屋のギッチョさんによる白人主役の映画の中での黒人の扱い・役柄についての記事。
 差別を踏まえ、日本人には伝わりにくい側面をコラムで解説。
 読んでいて思ったのだが「ディープ・ブルー」のサミュエル・L・ジャクソンはこの分類の複合パターンかもしれない。

緊急座談会 コレクション 〜物が集まる人たち〜

 今回の白眉。執筆者のDVD棚の写真を材に行われた座談会記事。
 もう全員がオチと言っても良いであろう棚とやり取りが素晴らしい。
マ「これ俺の部屋!?」
侍「永岡さんだよ」
破「なんで自分の部屋と間違えるんですか(笑)」
 の部分は実においしい。
 写真はもっと大きくしても良かったかもしれない。

深海か宇宙でしか生きられない女の子〜ダリル・ハンナ

 古澤健(ふるにゃん)さんによるダリル・ハンナとその映画における真実の愛についての記事。
 今や語る人も少なくなったダリル・ハンナとその映画についてここまで書ける人はそうそういないであろう。
 最近テレビでも放映しなくなったなあ…。

五社英雄の世界〜不愉快!女優のヌードで文芸ロマン〜

 真魚八重子さんによる五社監督の作家性についての記事。
 確かに五社作品の妙な生々しさやバッドテイストは興味深い。
 最大の秀作が「ジキルとハイド」というのは全く同意見。

編集長侍功夫への公開詰問状 武田鉄矢を語らずして何が「ゾンビ、カンフー、ロックンロール」だ!?

 マトモ亭スロウストンさんによるいつものような記事。
 武田鉄矢の独自性を追い、不幸てんこ盛りと倒錯嗜好を解き明かす。
 畳み掛けるような文章で武田鉄矢のおかしさを抉り出している。
 しかしやはり鉄矢はゾンビとかロックンロールではないと思うよ。


 この他関連した映画紹介などここに書ききれない記事もあり、充実した内容だった。

折込『何故この原稿が私の手元に』

 とある商品カタログに掲載されるはずだった映画紹介コーナーを巡る顛末。
 この内容を予想もしないままに読んだので驚いた。
 これは、侍功夫さんの随想であり、伊藤計劃さんの遺稿の一つとその奇妙な運命の話だったのだ。
 この経緯と記事を読む機会を与えてくれたことに感謝したい。