最近、はてなを含めWebで下の質問に対する回答者が話題になった。
実際の刀による斬り合いは…実際はどうだったのでしょうか?①切れ味に... - Yahoo!知恵袋
Yahoo!知恵袋に“本物の侍”が登場?日本刀での斬り合いについて詳しすぎる回答 - はてなニュース
私は、この元の質問回答について
回答者を信用している人が多いが、マニアの知識とあまりに差がないので(刀剣マニアは会うとこの手の話ばかりする)、体験者かそれを装ったマニアかの判断はできない。
というブックマークコメントをつけた。そのように考えた背景について書いてみよう。
日本刀の実用についての情報
実は、この回答者の程度の知識はWebだけでも手に入るものなのである。
日本刀の実用に関しての情報というのは、膨大に存在するが、情報源としてよく利用されるものは限られている。簡単にどのようなものがあるか紹介しよう。
(1)戦国時代以前の合戦に関する歴史史料
(2)江戸時代の仇討ち・果し合いなどの記録
(3)江戸時代の試し切りの記録(これは死体を切るものも含む)
(4)幕末・明治維新の切りあいの記録(池田屋事件や戊辰戦争、西南戦争など)
(5)昭和期・戦時中に実用された記録(軍刀を含む)
(6)兵法者・武道家などによる経験談(試合・試し切り)
(7)刀工による著述
(8)研究論文。日本刀の特性について工学・力学的に研究したものや法医学的に過去の死体を研究したもの、合戦の研究など。
(9)(1)〜(8)の記録・記事を元にまとめられた著作。
ここに書き漏らした種類の情報も存在する。
こうして見ると多岐にわたる情報があるが、実際には入手しやすさや分かりやすさに問題があってあまり使われない情報もある。そして、代表的なものはWebや書籍で引用・孫引き引用されており、容易に知ることができる。例えば日本刀の耐久性についての話では信州松代藩真田家で行われた「真田藩荒試し」の逸話がしばしば引用され、日本刀と軍刀の実用に関しては成瀬関次著『戦う日本刀』がよく引用される。
日本刀に関する情報源のうち、具体的で信頼性の高い情報は後の時代にならないと揃わない。具体性のある情報はほとんど幕末以降の記録に依拠している。特に調査対象の数が増えるのは戦時中の話ということになる。同じような条件での経験者の絶対数が(作り手にも使い手にも)多いからだ。
コンテクストの所在
話題になった回答者の情報は、既存の情報と比べてもあまりに情報量が乏しい。既存の情報の抜粋程度の内容しかない。
刀剣の実用に限らず、他の武道の経験談にも言える話だが、重視しなければならないのはコンテクストである。要するにその経験や調査研究は、どのような条件下でなされたものなのか、ということだ。どのような刀で、どのように使ったか。切る対象はどのようなもので、刀の損傷の部位・程度はどうか。
上で挙げた情報源のうち、よく利用される資料は、条件に関する情報の質や量が優れている(それでも批判すべき点はあるし、全て信頼できるとは限らない)。だが、今回話題になった回答は、既存の資料に比べて条件に関する情報が乏しい。回答者が多くの経験を重ねていたとしても、この回答にあるような情報だけでは他の情報との比較対照には使い難く、あまり検証に使えないということは覚えておいたほうがいいだろう。
刀剣や武術の実用的な話の検証は、語り手や資料そのものの信頼性も含めて条件をよく調べる必要がある。