軍隊格闘技の中の徒手格闘と武器戦闘の間

少し前に『イブニング』連載の漫画『オールラウンダー廻』で主人公・廻の打・投・極が切り替わる展開を掴む巧さが描写されたが、あれを見て、軍隊格闘技でのその種の展開について書いてみたくなった。


そもそも、兵士において本来は別個のスキルを組み合わせる事は、時代を下るにつれて訓練として構築されるようになった。例えばアサルトライフルと拳銃の射撃は本来別個の技術だが、それを組み合わせてライフルの弾が切れた際にマガジンチェンジではなく拳銃を抜いて撃つという訓練がある。これはマガジンチェンジを行うより拳銃に切り替えたほうが速く撃てるからで、銃を含む装備の変化、射撃技術の進歩と実戦経験があって生まれたものだ。


同様のことは格闘技術においても言える。
2011年3月、米陸軍の全特殊部隊向けの格闘技プログラムが制定された。プログラムの名前はSOCP (Special Operations Combatives Program)という。
このSOCPのコンセプトを単純に言うと、武器を使う局面への移行を前提としている格闘技術である(実際にはもう少し多義的な側面もある)。
現在の米軍の格闘技のベースは現在のMMAとほぼ同じで、キックボクシング・レスリング・柔術などだが、特にSOCPでは武器の使用を前提としているため、展開の切り替わりが競技とは大きく変容している。具体的にどうなるかというと、下の動画のようになる。

動画にあるように武器を使える体勢・距離への移行が重視されているのだ。相手に武器を奪われないようにし、自分が武器を使いやすい状況に変える。競技とは違った展開が生まれるため、練習も総合格闘技ベースであっても独特のものとなっている。
こうして使用する武器は銃とは限らず、ナイフ、警棒、手錠といった道具の使用も想定されている。何も持たない兵士というのはいない。素手のまま戦い続けるよりも、武器・道具の使用に移行したほうが有利なのである。これは当然相手にも言えることで、相手に武器を使わせない技術と組み合わせる事も重要となる。
以前、ナイフと銃を同時に構える技術 - 火薬と鋼でSOCPのためにデザインされたナイフ・SOCPダガーを紹介したが、これも素手・ナイフ・銃といった局面の移行をスムーズに行い、隙をなくすためのものと言える。
こうしたSOCPのコンセプトは警察など法執行機関でも評価され、訓練に取り入れられるようになってきている。