バッタ博士の脅威の本『孤独なバッタが群れるとき』

昆虫大学で買ってきた前野ウルド浩太郎氏の本が期待以上に面白かった。

孤独なバッタが群れるとき « 大学出版部協会
この本は売れると思うので、書店員の人は目を付けておいたほうがいい。
まずこの帯の文句が凄い。

その者、群れると黒い悪魔と化し、破滅をもたらす
愛する者の暴走を止めるため、一人の男がアフリカに旅立った



著者のブログを見ていないと「愛する者」が何かを想像できないのではないだろうか。
何か壮大な小説の帯のようである。


しかしこの帯に嘘や誇張はない。また、本の内容も尋常ではない。
研究者が一般向けに研究内容を紹介する本では、時折冗談や研究者のコミカルな経験談が織り込まれることは珍しくないが、この本ではその量も質も飛び抜けている。思いもかけない笑いが生まれる点で、読んでいて全く油断のならない本である。読む前に知ってしまうとみつける楽しみが減ってしまうのではないかと思うので書かない。そのうち誰かが紹介するだろう(丸投げ)。
また、バッタの相変異という著者の研究テーマも興味深い。サバクトビバッタの相変異という言葉は知らなくとも、バッタが巨大な群れをなして人間社会に影響を与えてきたことはそれなりに知られているだろう。その際のバッタが通常のバッタと違い、黒い色で長距離移動に適した姿になることも、ある程度は知られている。
こうした特性というのはよほど印象深いのか、神話や伝説のみならず、創作物にも影響を及ぼしている。韮沢靖の「飛蝗男」というキャラクター造形に生かされているし、『墨攻』(作画・森秀樹、脚本・久保田千太郎、原作・酒見賢一)では、意図的に群生相への変異を起こし、飛蝗を発生させることが行われていた。
今後はこの本がそうした文化に影響を及ぼす知識の源となるかもしれない。そういう点でも興味深い本である。
この本は研究者の生活を描いたエッセイとしても面白い上にサバクトビバッタの生態やそのメカニズムを解説した科学書としても面白く、いずれかに興味がある人にはお勧めできる。

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)