青空文庫のお勧め 高村光雲『幕末維新懐古談』

書こうと思っていた話がうまく書けなかったので、本の話を書こう。
紹介するのは青空文庫でも読める 高村光雲『幕末維新懐古談』だ。


青空文庫 作家別作品リスト:高村 光雲

幕末維新懐古談 (岩波文庫)

幕末維新懐古談 (岩波文庫)



高村光雲は言わずと知れた有名な彫刻家で、高村光太郎の父としても知られる。
『幕末維新懐古談』はその高村光雲が語る自伝的回想で、幕末から明治にかけての自らの人生と江戸・東京の世相が味わい深い。
なかなか知る機会の少ない庶民生活と、江戸から明治にかけての近代を体験した内面と、彫刻家独自の人生と三つの側面で得がたい回想となっている。
例えば『10 仏師の店のはなし(職人気質)』で紹介されている仏師のエピソードが面白い。語り口を紹介する意味でも、少し引用してみよう。

それで、腕は優れていながら、操行のおさまらぬ職人の中などに、どうかすると、鑿と小刀を風呂敷ふろしきに包み、「彫り物の武者修業に出るんだ」といって他流試合に出掛けるものがいたもんです。仏師の店へ飛び込んで、
「師匠と腕の比べっこをしよう。何んでも題を出せ。大黒でも弁天でも、同じものを同じ時間で始めよう。どっちが旨く、どっちが早く出来上がるか、勝負を決しよう……」などと、力んだもの。それで、面倒であったり、または、腕のにぶい師匠は、そっと草鞋銭を出して出て行ってもらったなど、これらもその当時の職人気質の一例でありました。



まるで時代小説にでも出てきそうな、剣術道場の道場破りのような話である。


この他にも浅草の大火に見る火消しの話、上野戦争の話、明治の徴兵逃れの話、仏師・彫刻家にとっての時代の変化など、どれもこの時代の面白い切り口を見せてくれる。
この時代に興味がある人には躊躇なくお勧めできる本だ。