電子書籍を導入した大学図書館の一年

私の勤務先の大学図書館では昨年6月から電子書籍を導入した。
予算が少ないので一年間で購入した電子書籍は36点。契約先は丸善e-book紀伊国屋NetLibrary
ここ数年で一般向けには数多くの電子書籍サービスが登場したが、大学図書館で利用者に提供できる電子書籍サービスは限られている。
学術情報を中心とした図書館向けの電子書籍はPDFベースだ。全文閲覧できるが、ローカルに全文保存することはできず、一度に保存・印刷できるページ数には制限がある。サービス範囲や利用方法、インターフェースの面で一般に販売されている電子書籍とは別の進化を辿っているものだと思ってほしい。電子書籍になっているタイトルも専門書中心で、出版社にも偏りがある。
大学図書館電子書籍導入からその後の一年について、簡単に書いてみよう。


・まず各社の電子書籍サービスの説明には要注意。学外からのアクセスや貸出サービスの導入などは公式サイトの説明が乏しく、営業もしっかり説明していないことがある。例えば電子書籍の貸出サービスにはAdobe eBook Solutionsが必要なのに、その説明が事前資料になかった、とか。ダウンロードのページ制限の説明も分かりにくい。電子書籍の説明のトップを見ても一度にダウンロードできるページの数は書いていない。
とにかくサービスの制限やオプションの利用に関しては説明が雑なので、かなりしつこく確認しておいたほうがいい。
・購入は、基本的にメールで購入するタイトルを代理店である書店営業に連絡することで利用できるようになる。
・アクセス方法はデータベースと同じ。接続IPの連絡やリンク設定を行う必要がある。紀伊国屋NetLibraryはEBSCOのデータベースなので、EBSCOの他のデータベースを契約していると簡単だ。
紀伊国屋NetLibraryを契約すると3,500件ほど無料の電子書籍がついてくるのだが、これがウチの大学の領域と合わないのであまり必要なかった。
OPAC電子書籍を検索できるようにするには書誌レコードを書店から送ってもらって図書館システムに読み込み、自館で所蔵をつける。電子書籍用の所蔵データの記述(分類や所蔵場所など)については事前に考えておく必要がある。
・当然だが、学内でのガイダンスや告知には色々工夫する必要がある。うちではガイダンスや学内ネットワークでの告知のほか、掲示にも気を配った。電子書籍と同じ紙の本がある書架で宣伝の掲示をした。講義の課題などで利用が集中する資料の場合には紙の本の利用に合わせて宣伝すると電子書籍の利用が増える。
・ウチでは学内LAN上での閲覧・ダウンロードのみで、貸出は実施していない。
電子書籍に関する利用者の質問で一番多いのは、アクセス制限(ウチでは同時一件のアクセス制限での購入)で読めない時に何かトラブルがあったかと思って質問してくるパターン。次はダウンロード方法。
・はっきり言って現在の図書館向け電子書籍のインターフェースは分かりにくい。利用者向けに分かりやすい画面解説の資料を作成しておく必要がある。
・一年間の利用件数(ダウンロード件数)を見ると紙の図書なみに利用があった。一方、アクセス0件の資料もあった。
・学生数のわりに蔵書数が少ない図書館のあるキャンパスからのアクセスが多い。
・今後も毎年同程度の予算で購入する予定。
・現在の電子書籍の一番の課題は、電子化してほしい資料が電子化されるかどうかとサービスの継続性。今後、他の図書館向け電子書籍サービスが増えるかどうかも気になる。
・どっちの書店の電子書籍が利用されるかは質問されれば回答する予定。