システマと『ツマヌダ格闘街』の明道流柔術の違い

漫画の中のロシア武術システマ 補遺 『ツマヌダ格闘街』追加2 - 火薬と鋼で書ききれなかった話を書こう。


先日紹介した漫画『ツマヌダ格闘街』のエピソードの中で、作品に登場する架空の武術・明道流柔術とロシア武術システマの技術が共通しているという説明が出てきた。明道流を修行している主人公ミツルが初めて経験するシステマの練習に即座に適応し、システマの熟練者のような動きを見せた理由として出てきたものだ。
今回はこの点について考えてみようと思う。
考えると言っても架空の流儀の話なので、ほとんど推量になる。ここからの内容は不確かな考察だと思ってほしい。何しろ書いている人間はインストラクターでも何でもないし、言語化しにくい側面もある。



上山道郎ツマヌダ格闘街』Fight: 97(『月刊ヤングキングアワーズGH』2014年8月号、少年画報社)より。
ステマの指導をするバウワンのナイフにミツルが対処する一連のシーン。

上の画像はシステマと明道流の共通性についての言及があった部分。この他にも示唆的なコマがある。
しかしこれまで登場した明道流と現実のシステマでは技も身体操作も違いがある。


極端に単純化して言うと、明道流の重心は低く、システマの重心は高いのである。イメージとして言えば、明道流の正中線は下から背骨を積み上げていった姿勢だとすると、システマの姿勢は上から背骨が下がっていて柔軟に動く(それでいて崩れない)ものだ。骨盤の鋭いひねりを使う明道流の突きとシステマのストライクもだいぶ身体の使い方が違う。明道流の重心は丹田(臍下丹田)にあるが、システマではより高い位置、頭のほうにあると言ってもいいだろう(単純化しているので厳密に言うと色々但し書きがつく)。姿勢、リラックスといった同じような身体操作に関わるキーワードが出ていてもアプローチや運用が変われば別物になる。今回の話ではそうした違いが考えられていないのではないだろうか。
さらに上のコマのような技術が登場する合理性についても考えてみよう。
この練習では相手の攻撃をブロックしたり力まかせに動かしたりするのではなく、相手の動きを利用して身体・意識が衝突しないように誘導する。ナイフの切っ先を相手に返すには相手にとって無理がある体勢にまで巧くもっていかないといけないわけで、なかなか成立しにくい。ここでバウワンは説明もなく、例を見せないまま殺気をもって攻撃している。この場合、ミツルは「ナイフをかわして打撃」「ナイフを持つ相手の腕を取って関節技」あるいはそれらの複合で対処するほうが自然ではないだろうか。そのほうがリスクが少ないし、これまで作中でやってきた技術に通じるからだ。ミツルがシステマの経験者と同じ動きをする背景や理由は薄いのである。
ストーリー上、ミツルの成長とドラエの指導力を示す必要があるであれば、システマの指導をするバウワンがデモンストレーションを行い、ミツルは明道流に近いバリエーション・応用を見せるという展開でも良かったはずだ(そのほうが漫画として面白いか、というと断言できないが)。しかし今回のような描写になったのは、システマと明道流の共通性を重視した結果ではないかと思われる。


ここまで書いていて今更だが、限られた情報から色々考えすぎた。
今回の説明や描写は今後の内容にも関わる可能性があって、現時点で考察するのは早計だったかもしれない。システマがこれからどこまで登場するのかも分からないし、単行本が出るのを待ってまとめて記事を書くか、ヤングキングアワーズGHの連載を追って逐一書くかが悩みどころだ。