『神技の系譜』と手裏剣術の図書館分類

甲野善紀著『神技の系譜 武術稀人列伝』(日貿出版社)を読んだ。

神技の系譜 武術稀人列伝

神技の系譜 武術稀人列伝

日本の武術に詳しい人には知られているが、一般にはなかなか知られていない達人について様々な史料や研究に基づいて紹介した本だ。
同書を読んで、図書館分類(日本十進分類法)において手裏剣術を剣道に分類する話につながる部分があったので引用しておく。
該当する部分は手裏剣、手裏剣術とその達人を紹介している第五章にある。

(前略)明治政府がまとめた一種の百科事典である『古事類苑』で手裏剣を記載する際にも分類を弓術にするか剣術にするかで問題になったという。この時は、大日本武徳会が先にも登場した只野真葛の『奥州波奈志』を参考資料とし、「弓の形、剣の精神」ということで、剣術に併入されることになったという。
甲野善紀著『神技の系譜 武術稀人列伝』(日貿出版社、2015)343ページ)

この「弓の形、剣の精神」にあたる説明は『根岸流手裏剣術要録』にもあり、成瀬関次『手裏剣』(新大衆社、1943)に引用されている。『手裏剣』の該当部分もこの『神技の系譜』で紹介されている(孫引きになるので引用はしない)。
これだけだと意味が分かりにくいので解説を加えると、手裏剣術は矢を手で投げる「打ち根」と剣術の剣を投げる「打物」を融合したものだという考えに由来する*1(それが全ての手裏剣術の起源・発祥とまでは言い難いだろうが、そういう認識があるということである)。この考えによると、手裏剣術の構えは弓術(打ち根)に由来するが、投げる際、手に持っている剣で斬り込むような意識は剣術のものだというのである。
日本十進分類法で剣道・剣術・居合・手裏剣術が全て789.3 剣道に分類されることは図書館司書のための格闘技・武術知識講座 - 火薬と鋼で解説した。こうした図書館分類は、遡るとこうした武術の歴史や考え方が基になっていると考えられる。

*1:本当は投げるではなく「打つ」