漫画の中のロシア武術システマ 『ツマヌダ格闘街』追加2015年11月号分

上山道郎ツマヌダ格闘街』(少年画報社)の雑誌最新号掲載部分にまたシステマが登場したので、紹介する。
ネタバレを含むので、以降の部分を読む際には注意してほしい。
過去にシステマが登場した部分は以下の4つのエントリで紹介している。
漫画の中のロシア武術システマ 第4回『ツマヌダ格闘街』『嘘喰い』 - 火薬と鋼
漫画の中のロシア武術システマ 補遺 『ツマヌダ格闘街』追加 - 火薬と鋼
漫画の中のロシア武術システマ 補遺 『ツマヌダ格闘街』追加1.5 - 火薬と鋼
漫画の中のロシア武術システマ 補遺 『ツマヌダ格闘街』追加2 - 火薬と鋼

ツマヌダ格闘街』のこれまでのあらすじ

ツマヌダ格闘街(ファイトタウン)』はストリートファイトが地域振興策として制度化された架空の街ツマヌダを舞台とした漫画である。
主人公の八重樫ミツルは格闘技初心者だったが、明道流柔術を伝えるメイド、ドラエ・タチバナ=ドリャーエフの指導を受けて出場するようになった。これまでに様々な人物との出会いや修行、試合によって経験を重ねている。
現在はツマヌダの選手と外国の選手の大会が開催されており、その試合の一つでシステマを使う選手が出場している。
ツマヌダ側の選手としてカイン(複数の武術)とイリヤ示現流、柔道、合気道)、外国人選手としてイヴォン(ボクシング・詠春拳)とバウワン(システマ)の4人が戦うタッグ戦。互いに女王とその王冠を守る騎士となる変則ルールである。
イリヤは以前の試合でバウワンに圧倒されており、その後システマを学んだことが語られている。
カイン対イヴォンの戦いではカインが勝利し、今回はイリヤとバウワンの勝負となる。

増えたシステマの説明とコネクト



上山道郎ツマヌダ格闘街』Fight: 112(『月刊ヤングキングアワーズGH』2015年11月号、少年画報社)より

バウワンは何度もイリヤの攻撃をいなし、投げて圧倒する。
劣勢にも関わらず選手交代をしないイリヤに対してバウワンは個人の感情を優先していると怒り、構えを見せる。


上山道郎ツマヌダ格闘街』Fight: 112(『月刊ヤングキングアワーズGH』2015年11月号、少年画報社)より

この部分は説明が必要だろう。現実のシステマに固定的な構えはないが、全くそれらしい物がないわけではない。
では、この場面のような理由で構えるかというと難しい話である。ありえないとは言わないが、少し無理があるかもしれない。
イリヤ示現流の運足で柔道・合気道の投げ技・組み技を仕掛けるのを基本パターンとしている。
あらかじめ決まった位置に腕を上げて相手の腕を待ち受けると、わざわざイリヤの得意技に付き合うことになる。
構えることで相手を誘導することもできるが、このストーリーではそこまで描写していない。
バウワンの怒りに対して、妹のミュウミュウは「真面目すぎるのはシステマ遣いとして欠点でもある……」と懸念するが、この戦い方にもその真面目さが表れていると取れる。



上山道郎ツマヌダ格闘街』Fight: 112(『月刊ヤングキングアワーズGH』2015年11月号、少年画報社)より

再び組んでくるイリヤの腕を捉えたバウワンはシステマのコネクトにより緊張を探ってテイクダウンし、押さえこもうとする。
イリヤはダウンしつつもシステマのローリングで押さえこまれない。
ここでイリヤがカインからローリングを含めシステマを習っていたこと、そしてカインに示現流を教えたことが明かされる。
ローリングで転がったイリヤが立ったのはカインが控えている場の近くであり、何らかの策があることが伺える。
そしてまたもこれまでと同じようにイリヤがバウワンに組み付く。



上山道郎ツマヌダ格闘街』Fight: 112(『月刊ヤングキングアワーズGH』2015年11月号、少年画報社)より

コネクトによって相手を捉えようとするバウワンに対してイリヤ示現流にある左肘を動かさない教え「左肱切断」によってコネクトを断ち切り、攻撃する。
突きを受けて後ろに倒れたバウワンは控えていたカインに首を抑えられ、その間にイリヤが相手方女王の王冠をとって勝負は決まった。
この部分の最大の疑問は「左肱切断によってコネクトできなくなるか」という点だ。示現流の経験者と組んだ経験がないので何とも言えないが、どうなるだろう。実際にはコネクトできそうな気がするが難しいかもしれないし、断定できない。
それ以前に相手の組み付きを受けてからのコネクトによるテイクダウンにこだわる事自体、相手に対策をとらせることを可能にしているという問題がある。
上述したようにバウワンは相手に合わせて戦ってしまっており、戦術的な自由度を失っていた。ストライク(打撃)も使っていない。作者がシステマのストライクを知らないとは思えないので、話の都合上登場させなかったか今後の展開で使う予定があるのかもしれない。
次回以降や単行本で今回の試合についてコメントや解説が加わるようなら、後でまた紹介しよう。