上杉謙信の仕込み杖・戒杖刀

日曜のシステマの練習で仕込み杖の話をした時に上杉謙信の仕込み杖のことを思い出した。
日本刀を仕込んだ仕込み杖の刀身は二尺以下の短いものが多く、また細身であったり直刀であったりと杖に合わせたものもある。しかし上杉謙信の仕込み杖はそうではなく、かなり長く反りのある刀身を仕込んだものだ。
珍しいものなので紹介しておこう。


上杉謙信の仕込み杖「戒杖刀」は実物が現存していることもあって有名で、Wikipediaの仕込み刀の項目にも記載されている。しかしネットで画像つきで紹介されていることはほとんどない。このためGoogle画像検索で「戒杖刀」を検索しても該当しない画像ばかり出てくる。
国宗による刀身だけであれば今度開催される[伝国の杜]米沢市上杉博物館/:特別展「上杉家の名刀と三十五腰」に画像が出てくるが、多くの人が見たいのは杖となっている拵のほうだろう。
戒杖刀の全体の画像は竹村雅夫『上杉謙信・景勝と家中の武装』(宮帯出版社)等で見ることができる。

上杉謙信・景勝と家中の武装

上杉謙信・景勝と家中の武装

この本は上杉家の甲冑や武器武具を幅広く扱った本で、戦国時代の武器・武具に興味がある人にはお勧めの本だ。もちろん刀剣についても数多く扱っている。
戒杖刀は同書の打刀の項目の最後に別扱いで紹介されている。
残念ながらスキャナーが古いので荒い画像でしか見せられない。元の本のサイズも大きくはないが(A5判変形)、この画像よりは見やすいので、気になる人は本を買ってほしい。

戒杖刀の説明文のうち、形状について説明した部分を引用してみる。
全体について。

拵は全体を木の枝に倣って、美事に反りの深い太刀を仕込んだ全体黒漆塗の品で、全長は一五〇センチにも達し、謙信の背丈にも近い。

刀身について。

刀身は二尺五寸八分(約七八.二センチ)腰反りの、これも鎌倉中期の備前刀で、生ぶ茎の堂々たる太刀姿をなし、茎鎺下に古様で小振りな「国宗」の二字銘をみる。目釘孔三。刀身は地鉄よくつみ、大振りな丁子乱を焼く。研ぎもことに古い差込拭のままに保存される。

拵について。

柄、鞘ともに総体黒漆塗であるが、柄は杖であるために頭をT字型に形造り、黒漆の上に青地錦を下地として、紫糸の平菱巻を施し、緊急の使用に備えている。柄全体を細みに造るが、T字の接続部と縁には無地の金具を取り付け黒漆を塗る。またT字型の片側下部に小さな輪鐶を取り付けており、緒を附したものかと思われる。
杖状であるため、鞘と接する部位は当然合口式となるが、鯉口にも柄縁と同型同仕様の金物を置いて鞘につなげる。鞘は自然木を思わせる巧みな彫刻を加え、七割ほどに太刀身が入るため、身に合わせて深く反るが、下三割はいくぶん逆に反らせ、鞘尻は木の枝を切り払ったごとく二俣としている。栗方部分には黒漆塗の輪金を嵌め、そこに黒色山銅製の古式な「切子頭」の座を取り付け、同質の鐶を通している。さらに注目されるのはその下、返角の位置に、枝の切り残しの様を表現した突起を出していて、返角的機能を考慮したものと思われる点で、杖に作り込みながらも、打刀様に腰に差すことをも想定するなど、武用に配慮した様子がうかがわれる

以上のようにかなり長大な杖で、形状も独特である。