芥川賞候補作にシステマ登場

ジャップ・ン・ロール・ヒーロー

ジャップ・ン・ロール・ヒーロー

新潮 2018年 09 月号

新潮 2018年 09 月号

紹介する時期を外してしまったが、第160回芥川賞の候補作にはロシア武術システマが登場している。
それが鴻池留衣『ジャップ・ン・ロール・ヒーロー』である。
芥川賞候補になる純文学作品でシステマのようなマイナーな武術が登場するのは珍しい。
この小説は、作中に登場するバンド「ダンチュラ・デオ」の虚構と現実を巡ってサスペンス小説のような様相を呈してくる。
そしてバンドのボーカル「僕」とギタリスト・喜三郎はベースのアルルによってシステマを基にした格闘術を練習することになる。
練習や格闘の場面を確認すると、システマらしい部分もあるがだいぶ違う部分もある。
一部を引用してみよう。

僕たちは基本の型を教わる。何回も型の練習を繰り返し、最後には二人で約束組み手、そしてスパーリング。そんな毎日が始まった。これはシステマという格闘術に、様々な流派の思想を取り入れて「知り合い」が発展させた独自のものだと、後に教えてもらった。(中略)銀座駅界隈の地下街では、売店と壁の隙間に身体を滑り込ませたり、通行人の群れの流れに逆らいつつも衝突を避けるようにして通り抜ける訓練をさせられた。これもまた護身術の訓練の一つなのだそうだ。

この他にも描写は多い。
型、約束組み手云々のあたりはシステマらしくはないが、システマを基にした独自のものだと説明されているので現実のシステマと違っていてもおかしくはない。なお、システマの来歴や特色に関する説明はない。
一応作中ではその後もシステマとして説明されているので、以前まとめたシステマ登場小説のリストに追加しておいた。
machida77.hatenadiary.jp