江戸時代、エイと子を作った男の話

Twitterで以下のような話が出て話題になっている。
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この種のエイに関する逸話や伝説はいくつもある。
私が知っている話の一つは、江戸時代前期に出版された『奇異雑談集(きいぞうだんしゅう)』に載っているエイと人の間に生まれた子の話だ。行為に及ぶだけにとどまらず子供が生まれてしまっているのである。
この話は手に入れやすい本では岩波文庫の『江戸怪談集(上)』に収録されている。
有名な話なので他で読んだ人もいるかもしれない。

江戸怪談集〈上〉 (岩波文庫)

江戸怪談集〈上〉 (岩波文庫)

この本から該当する話を現代語訳して紹介しよう。

伊勢の浦の小僧、円魚(えいのうお)の子の事


京都紫野の大徳寺は、応仁の乱の折に寺から僧侶達が避難し、散り散りになった。
大徳寺の岐庵和尚の弟子某書記、字は牛庵、俗姓は中村という僧は近隣の国へ行き、伊勢の国の海辺の漁村に辿りついた。
山の腰(中腹と麓の間)に小さな庵があり、登っていくと遠景が素晴らしい。
牛庵が庵の縁側に腰をかけて休息すると庵主が現れて雑談をした。
庵主が小僧を呼んで、「お茶を出しなさい」と言うと、小僧が茶を持ってきた。
牛庵がその小僧を見ると、人のようで人ではない外見をしている。
不思議に思ってよくよく見ていると、庵主はこの小僧はエイの子なのだと言う。
それを聞いた牛庵がますます不思議に思ってその事情を尋ねたところ、庵主は次のように語った。


麓の漁村にある漁師がいて大きなエイを釣った。
家に持ち帰ってエイを裏返しに置いていたら、その開閉の動く様子が人のようだったので、これを犯したところ、本当に人のようだった。
漁師は不憫に思えてきてそのエイを海に放した。エイは喜んで海中に入っていったようだった。
それから10か月が過ぎて、漁師に夢にエイが現れ、
「あなたの子がいます。他所の浦の岩の間にいるので、探して取りあげてください」と言ったところで目が覚めた。
不思議な夢だが、よくよく考えると身に覚えがあることだ。
漁師がその浦に行って探してみたところ、子供がいた。
抱えて家に帰って育てると人の形に育ったので、私(庵主)が弟子として引き取って、庵に置いている。
年齢は今年で18歳になる。人というか、人にあらずというか。


庵主と牛庵は一緒になって笑い、牛庵はその場を辞去した。


本草学に囲魚というものがあるがこれは別である。今、円魚(えいのうお)の字は明らかではないので見当をつけてこれを書いた。