沢村大学の組討用短刀

国会図書館デジタルコレクションで調べている際に変わった短刀をみつけた。


堀正平編『記念武道写真綴』(剣道考古館, 1941)
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鞘のほうに鍔あるいは膨らみがついている組討用短刀だ。
通常は柄のほうに鍔があり、手を保護するようになっているが、この組討用短刀は柄を握る・抜く空間を確保するために鍔が鞘の鯉口のほうについている。これにより組討で相手と密着したり地面が邪魔になったりする状態でも短刀を抜くことができる。
この工夫は細川家の沢村大学の発明とされている。
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沢村大学は細川家の重臣で朱柄の槍を許されたほどの武功の人として知られており、宮本武蔵との関わりも有名だ。
大学は流水剣と呼ばれる鎧通しを使ったという。
流水剣は刃長一尺四寸の片切刃造の短刀で樋が太く、柄頭に穴があって、敵を刺した際に樋を流れる血がそこから抜け落ちるようにしたとされている。


福永酔剣『日本刀大百科事典 5 ほぅ-わ』(雄山閣出版, 1993)より。引用にあたってレイアウト編集。

これはこれで個性的な刀身と拵えだが、『記念武道写真綴』の組討用短刀とは違う。
詳しく書いてあるので実物か記録、写真などがあるのかと思うが、まだに確認できていない。
流水剣と上で紹介した組討用短刀、どちらも沢村大学の発明なのか、それともそういう言い伝えがあるだけなのか謎である。

なお、大学拵というと陸奥守山藩主・松平頼貞(徳川頼房の孫。大学頭)が考案したもののほうが知られている。これは沢村大学の拵とは別のものだ。同名で全く由来・形状の違うものが存在するというのは資料を調べる際には紛らわしい。
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2022-12-21追記

『刀剣と歴史』494号の細谷通寛「刀剣雑話(一一)」にこの短刀の話が出ていた。



https://dl.ndl.go.jp/pid/7901188/1/27

福永酔剣『日本刀大百科事典 5 ほぅ-わ』の記述と同じなので、これが情報源なのだろう。
また所蔵者・加納聞喜氏の名前が出ていることから、実物が存在したということも分かった。