矢口高雄『9で割れ!!』の広島晃甫の絵を追う(2022.12.4追記)

こちらで話題にされていた件について。
m-dojo.hatenadiary.com
ここで、矢口高雄氏の下宿先の絵の話の一つに広島晃甫の紅梅白梅之図という作品の習作の話が登場する。
気になったので情報を探してみた。
国立美術館蔵とあるので、もし今もあるなら独立行政法人国立美術館所蔵作品総合目録検索システムでみつかるはずだ。
独立行政法人国立美術館・所蔵作品検索
しかし広島晃甫で検索してみつかるのは《泊船》、《青衣の女》、《国光瑞色》の3点。
念のため国立博物館所蔵品統合検索システムColBaseでも検索したが該当する画家の作品はない。

こうなると後は画集や展覧会情報を追うことになる。
2017年に徳島県立近代美術館で特別展「廣島晃甫回顧展-近代日本画のもう一つの可能性」が開催され、ネットに情報が残っている。
公式サイト:廣島晃甫回顧展
出品目録を見ると、紅梅白梅之図という題の作品はないが戦後の作品に《紅白梅》(1946~51年頃)というのがある。国立美術館ではなく徳島県立近代美術館の所蔵作品だ。
『9で割れ!!』で言及されているのはこの絵のことではないか。
そこで、この展覧会の図録を確認してみた。作品の説明で漫画に出た情報に関連する内容でもあればしめたものだ。
図録から該当の作品ページを紹介してみよう。


廣島晃甫回顧展』(徳島県立近代美術館, 2017年)より

残念ながらこの絵に関して矢口高雄氏の漫画に出てきたエピソードに関連するような説明は図録になく、確定はできなかった。
しかし図録に出ている同展覧会に出品されなかった廣島晃甫の作品情報を見ても他に紅白の梅を描いた作品はないようなので、この絵が該当する可能性はあると考える。
他に紅梅白梅を描いた絵がないかどうかについては引き続き調べる予定。
国立美術館所蔵という情報は、所蔵ではなく展覧会出品だった可能性も考えられるが、これについてもあわせて調べたい。

  • 【2022.12.1追記 補足】

上野の森美術館に行ったついでに東京国立博物館資料館に行って関連資料にあたってみた。
同館には展示会図録や画集が数多く所蔵されている。
今回調べたのは以下の3つの図書だ。

・『4人の画家 : 佐伯祐三・前田寛治・村上華岳・広島晃甫』([国立近代美術館] , [1954])
・『廣島晃甫画集』(廣島希求子 , 1955)
・『馬場不二・広島晃甫・矢野誠一』( [香川県文化会館], 1972)

このうち、『廣島晃甫画集』に該当する絵の情報があった。
同書の巻末は広島晃甫を知る人々の回想が収録されており、その中の一つに秋田県湯沢町篤農家として知られる京野兵右衛門「晃甫先生追想」という文章がある。そこでは関東大震災後に広島晃甫が湯沢町に来た際の思い出として、矢口高雄『9で割れ!!』に登場するエピソードと同じ話が登場する。

該当箇所を以下に引用する。

又或時は町内某家の梅の枝振りが気に入つたからそこの処を切つて来いということになつたが、何しろその家の大切にしている庭木なので簡単には参らない、お酒を届けたり何度も御機嫌を伺つたりして遂にそこを切らせて貰つて持つて来させたものだ、この枝の写生が実に入念で、四方八方から眺めては写しとるのであつたが、その熱心さは頭の下る思いであった、後日揮毫された、聖徳太子奉讚展出品画の「白梅紅梅」の画にはこの枝振りがとり入れられてあつた筈である。

京野兵右衛門「晃甫先生追想」(『廣島晃甫画集』(廣島希求子 , 1955))より

矢口高雄氏が描いた話と同じと考えていいだろう。
聖徳太子奉讃展というのは、聖徳太子奉讃会が開催していた展覧会のことである。
ではどの回の展覧会で、「白梅紅梅」は展覧会の出品目録に出ているか、また追って確認する。

  • 【2022.12.1追記 補足】

増山太郎編著『聖徳太子奉讚会史』(永青文庫, 2010)を確認した結果、聖徳太子奉讃美術展覧会は第1回(大正15年)と第2回(昭和5年)の2回開催されたことが分かった。第1回の図録は国会図書館デジタルコレクションで利用できる。第2回の出品目録は『日本美術年鑑 昭和6年』に掲載されている。
これらの図書を確認したところ、広島晃甫が出品したのは第1回だけであることが分かった。
図録によると第1回聖徳太子奉讃美術展覧会に出品された広島晃甫の作品は以下の《雪梅圖》である。


国立国会図書館デジタルコレクションより

『9で割れ!!』に出てきた「紅梅白梅之図」とも『廣島晃甫画集』に出てきた「白梅紅梅」とも題は違うが、この絵があのエピソードの絵と考えて良さそうだ。
図録はモノクロで分かりにくい。
聖徳太子奉讃美術展覧会図録以外の資料には画像が掲載されておらず、現在の所蔵先も含め詳細は不明だ。
《雪梅圖》についてまた確認できる情報が出てきたら追記する。