死ぬことと見つけたり

死ぬことと見つけたり〈上〉 (新潮文庫)

死ぬことと見つけたり〈上〉 (新潮文庫)

死ぬことと見つけたり〈下〉 (新潮文庫)

死ぬことと見つけたり〈下〉 (新潮文庫)

 今持っているのは大学生の時に文庫で買いなおした本。最初に読んだのは中学生の頃で、ハードカバーだった。中学生の年齢でこんな小説を読んでしまったら、その後どうなるかは皆さんご想像の通り。*1 そんな訳でさんざん何度も読んだ本だが、暇なのでまた読んでしまった。
 この小説の面白さは冒頭の随筆部分から始まる。隆慶一郎が自分の過去について語ると尋常ではない生が伺えてすばらしい。小説の登場人物なみだ。この小説と関係ないが、別の随筆にあった上海ガニのエピソード*2の大人げない隆慶先生なんか萌え萌え。
 本編は「忠義に厚い死人だから無茶をやって主君も大変」という普通の時代小説ではあまりない構図が良い。「死人だから」で何でも済んでしまう(隆慶一郎作品では「道々の者だから」とか「鬼っ子だから」とか「いくさ人だから」といったことが無茶な状況下では理由付けになるというのがパターンだ)。斎藤杢之助、牛島萬右衛門、中野求馬らの私心のなさのために読者にも違和感なく無理が通じてしまう(たまにつっこみたくはなる)。つくづく未完であるのが残念だ。森田信吾が完結版をひねり出して漫画化しないものか。

*1:つまり中学生の一時期、毎朝死んでいたのである

*2:時代小説の愉しみ』にあったと思う