偽書・東日流外三郡誌

偽書「東日流(つがる)外三郡誌」事件

偽書「東日流(つがる)外三郡誌」事件

 「東日流外三郡誌」(つがるそとさんぐんし)と言うと東北古代王朝や豪族についてデッチ上げた資料で、古史古伝の一つだ。「東日流外三郡誌」に限らず、この種の偽書とされる古史古伝の価値について持ち上げようとする人々がいるが、その手の人間の主張は「地球は平らである」と信じている人間の論と大差はない。
 本書は「東日流外三郡誌」について特に偽書説にコミットした東奥日報の記者によるノンフィクションで、擬似科学やオカルト話を懐疑的な思考から楽しむ人間には極めて興味深い本だ。これまで「東日流外三郡誌」について否定的な本はいくつも出ているが、研究者によるものが多かった。それに対して新聞記者という立場で長くこの件に接してきた斉藤光政氏の記述はよりわかり易いものとなっている。この件についての知識がない人間でもとっつきやすいだろう。関係者への取材だけでなく、とり・みきの『石神伝説』にまで言及しているような幅広さも魅力だ。
 ただし、こうした偽書がどう受容され、どう扱われていったかという点は甘い。この問題は学界の問題や思想的問題の複雑さと関連するので、あえて触れなかったのかもしれないが…。
 この種の古代史の偽書偽史に興味がある人にはお勧めの一冊。