犯罪や事故に対処する銃のテクノロジー

 GIGAZINEにこんな記事があった。
 「鉄砲」のイメージを変えてしまうかのような鉄砲の新製品たち - GIGAZINE


 「鉄砲」のイメージも何も、ここに紹介されている製品の技術はかなり以前からあり、今更特筆するようなものではない。
 例えば非致死性の弾は、最近登場したわけではなく、公的機関向けのショーでは珍しくない。
 レーザーレンジファインダー付きスコープは従来の製品にあり、日本で買えるものもある。
 ティ−ザーの新製品もそうだが、既存の製品の流れにあるものでしかなく、画期的な新製品というわけではない。
 技術的にも外見のデザインから見ても、あまり新奇なものには見えない。
 イメージ云々というより、そもそも銃についてよく知らない、というだけのような気がする。
 とは言え銃器雑誌を読まない人にはなかなか伝わりにくい情報ではある。
 そこで、この中でも特に一般に知られてなさそうなスマートガンについて説明しよう。

スマートガン

 皆さんはスマートガンというものをご存知だろうか。
 スマートガン(smart gun)とは持ち主以外撃てない銃(personalized gun)だ。
 スマートガンには、銃社会アメリカで問題視されている子どもによる誤射の防止、そして犯罪者に銃が奪われ、悪用される事件の防止という二重の意味がある。
 1990年代、アメリカを中心に「持ち主以外の人間が撃てない銃」が盛んに研究・開発された。
 National Institute of Justice (NIJ)でも1994年から研究支援が開始されている*1
 この時代、IEEEの報告にもスマートガンの研究が出て、銃やセイキュリティのショーでは開発中のスマートガンが展示されるという状態になった。
 この時代に研究されたスマートガンには、銃本体が鍵となるアイテム(ブレスレット等)からの信号を受けないと撃てない銃や、指紋認証などの認証機能を取り入れた銃などがある。
 ゲーム「メタルギアソリッド4」のナノマシンで制御された銃のようだが、あそこまでSF的な技術ではない。


  なお、スマートガンの名前で製品化されたものにSmartLock社の製品があるが、これは電子的なスマートガンとは違う。
     Smart Lock Technology Inc.
 専用の強い磁力を発する指輪をはめて銃を持つと、銃のグリップに内蔵したメカニズムでロックが解除されるという簡単なものだ。コストは低いが、当然銃が磁化されてしまうという欠点がある。


 高度なシステムとしてのスマートガンは、90年代にNIJの資金を受けた会社も含め、多くの会社で研究された。
 NIJの資金で研究されたコルト社のスマートガン*2は、腕時計のような装置から発信される電波で銃のロックが解除されるというものだった。
 同様にNIJの資金でS&W社やFN社はバイオメトリクス認証(指紋等の認証)のスマートガンの研究を行った。
 こうした研究の蓄積により、スマートガンの評価ポイントや技術的課題が明らかになった。
 最大のネックは、認証が正確に作動するかどうかと、コストが機能に見合ったものかどうかという問題だ。
 例えばコルト社のスマートガンは「ほとんどすぐ誤作動を起こした」*3とされている。
 同時期に研究を行ったNew Jersey Institute of Technology(NJIT)のスマートガンの認証は手のサイズ、力など複数の情報によるものだったが、成功率が90%という課題があった。
 誤作動によって肝心な時に撃てない、あるいは持ち主以外でも撃てることがあれば、高度なシステムを導入する甲斐がなくなってしまう。
 また、誤作動を起こさなくともスマートガンを構成する重要な部品が破損した場合も同様のトラブルが起こりうる。
 破損でなくとも、電池切れで作動しなくなるというパターンもある。
 そして、今回GIGAZINEで紹介された製品も含め、銃本体よりもはるかに高額なものばかりだ。
 こうした流れから、2000年代初頭にはスマートガンの研究開発は減少し、スマートガンの失速は明らかとなった*4


 今後もスマートガンの研究を行う企業はあるだろうが、高度な電子認証を内蔵する上で乗り越えがたい問題―システムの耐久性・確実性・価格―はついて回る。
 現在までのところ、こうした課題全てをクリアする技術はなく、実用的な価格と性能のバランスを満たしたスマートガンは存在しない。
 当分の間、スマートガンは民間人や警察が導入するようなレベルのものではなさそうだ。

*1:http://www.ncjrs.gov/pdffiles1/nij/slsmartgun.pdfに背景と内容が紹介されている。

*2:http://www.sciencentral.com/articles/view.php3?article_id=218391185&cat=3_3に写真が掲載されている。当時(1999年)話題だったiMacの影響からかiColtと呼ばれた。

*3:http://www.highbeam.com/doc/1G1-56191205.html

*4:http://spectrum.ieee.org/biomedical/devices/smart-guns-stallが詳しい