「パワースポット」についての懐疑的なメモ

パワースポットめぐりでパワーを奪われていないだろうか?:日経ビジネスオンライン
 最近流行の「パワースポット」についての批判記事だろうと思って読んだのだが、思い込みが激しいのか調査を十分していないのか、おかしな解釈や説明があった。

(略)英語の辞書を引いてみても、「パワースポット」なんていう言葉は出てこない。さよう。これは、まるっきりの和製英語なのだ。

 これが一番ひどい勘違い。
 power spotという言葉はもともと英語に存在する。
 私が知っている例だと、カルロス・カスタネダwikipedia:カルロス・カスタネダ)が使っていたのを思い出す。
 カスタネダは1973年からヤキ・インディアン呪術師から伝えられた呪術の知識を広めた人物で(後にほとんど捏造・剽窃であることが判明)、ニューエイジ運動に親和性が高く、その種の活動者に影響を与えた。
 1975年のTimes誌のインタビュー記事でもpower spotについての言及がある。
Carlos Castaneda Time Magazine Interview
 Google Booksで"power spot"で検索すれば他にも現在の日本の「パワースポット」と同じ意味で洋書・洋雑誌で使われた例が無数に出てくる(違う意味のものもある)。
 大体、特殊な分野の用語については一般向けの辞書で調べるものではない。


 後はパワースポットについて、気になったことを書いておこう。
 パワースポットという語は、日本ではスピリチュアル・ブームの頃から女性誌などで使われている。
 これはCiNiiで検索するといくつかの例がある。
 面白いのは2000年3月号の月刊エネルギーレビューに「ルポ 地球のパワースポット、ヴォルテックスを訪れて 米国アリソナ州セドナ」という記事があること。なぜエネルギー関連の雑誌にこんな記事が載ったのだろうか。
 それ以前でも日本で使われた例はある。清田益章『発見!!パワースポット』(1991、太田出版)のような本もあった。
 ざっと検索したところ、90年代にはオカルト本や風水の本で使用例がある。
 それがスピリチュアルブームの影響からか、より多く使われるようになっていった。
 特に今年に入ってからはテレビ番組、それも旅、観光に関わる番組やコーナーで見るようになった。
 こうした言葉のブームに代理店の影響があるのか、それともブームを代理店が利用しているのかはわからない。
 スピリチュアルブームや芸能人の影響はありそうだが、全てを代理店や業者が仕組んだように考えて良いかどうかは疑問がある。
 少なくともセドナに関して和製英語で日本人観光客を呼ぼうとしているというのは事実に合わない。
 パワースポットは和製英語ではないし、セドナは日本のパワースポットの流行より以前からパワースポットとして知られていたからだ。


 肝心のpower spotという語が英語圏でいつ頃使われるようになったのかは、把握していない。
 この言葉は、power centreやpower placeという語と同じとされている。レイラインwikipedia:レイライン)と関連付けられていることも多い。
 まず、前提としてパワースポットに似た概念は古くからある。
 日本でも宗教・伝説にまつわる土地・建築物で病気が治る・幸運に恵まれる話があるように、海外にもこの種の話はある。
 有名なルルドの泉(wikipedia:ルルド)もその一つで、海外ではこれもpower spotと呼ばれていることがある。
 だからインディアンの聖地についてその種の伝承があっても不思議ではない。
 だが、現在のアメリカのpower spotに関する情報はニューエイジ運動の影響が色濃く、古くからその土地がもたらす影響についての伝承があるとは限らない。
 後付でインディアンの聖地だからスピリチュアルな効果があると言われているような印象がある。
 この「聖地とされている土地」=「良い影響を人にもたらす土地」と決め付け、伝統的な宗教的解釈より今風の説明(霊的な力とか地球のエネルギーとか)を与えたものが現代のpower spotと言っていいだろう。
 中には聖地だということ自体後から作ったのではないかと疑われる場所の例もある。
 こうした海外のpower spotと比べ、日本では神社のご利益がそのままパワースポットの効果になっている例が多く、伝統をかなり引きずっている感が強い。
 (どちらにしても効果の宣伝が増し、オカルト度も増している印象はある)
 アメリカのセドナについて言えば、ニューエイジ関連の著作で知られるDick Sutphenが1978年に出したPast Lives, Future Lovesという本からパワースポットとしての認識が広まったという*1
 更にSutphenは1993年にこの認識を押し広げたPsychic Energy Vortexesという本を出した。
 同書でStuphenはVortexという地球のエネルギーが湧き出るセドナの場所を同定し、それがセドナの観光に影響を及ぼすようになったのだ。
 こんな後付の理屈でも信じる人は多いのか、セドナを利用したいかがわしい代替療法・治療体験談は無数にみつかる。