琉球大学の問題で話題になった代替医療の本

 代替医療ホメオパシーに関して、先日また新たなニュースが流れた。琉球大学の医学部保健学科で必修授業でホメオパシーが教えられていたということだ。
http://www.asahi.com/national/update/0916/TKY201009160388.html
 この問題に関して、実際に誰がどのような授業をやっていたのかという点があまり詳しく報道されていなかった。
 既に報道を元に調べた人がいて、下記のブログエントリで紹介されているが、教科書の内容までは書かれていない。
琉大保健学科ホメオパシー騒動の記事が琉球新報に載ってました | ず@沖縄
琉大保健学科ホメオパシー騒動の教科書を見てきたよ | ず@沖縄
 そこで、問題の授業で使われた教科書『看護のための最新医学講座 33. alternative medicine』を図書館で読んできたので、その内容を紹介しよう。


 同書は看護師向けとなっているが、広く医療分野で代替医療をどのように利用するか、どのような代替療法があるかを解説したもので、看護師限定の内容ではない。各節ごとに執筆者が異なり、基本的に代替医療(補完代替医療)を積極的に医療に取り入れる立場の人間が執筆している記事が中心だ。
 もちろん無批判に代替医療を受け入れるべきという主張ばかりではない。代替医療エビデンスについて整理した津谷喜一郎による「代替医療EBM」や代替療法を選ぶ際に考慮しなければならない様々なバイアスの問題などを扱った文章も存在する。
 同書の最大の問題点は、「第2章 考え方と診療の実際」以降の内容をほとんど代替療法の従事者に委ねてしまったことだ。例えば第2章で取り上げられている「ホメオパシー」の項目の執筆者は、日本でも特に影響力があり、しかも標準医療に対する拒絶反応が強くオカルト的な主張をする由井寅子である。
 その内容は由井寅子が会長を務める日本ホメオパシー医学協会の主張そのままで、ホメオパシーに関して批判的な情報は一切なく、ホメオパシーに治療効果があるかのような説明しかない。さすがに通常医療を否定するような言説は控えられているが、掲載されている内容は代替療法の中でしか通じない理論、効用の話ばかりである。第1章で解説されたエビデンスやバイアスといった観点は、第2章以降どこに消えたのだろう。
 ホメオパシーの歴史や基本的な考え方は「ホメオパシーとは」とほぼ同じ内容で、長い歴史があって英国王室で使われているという事を信頼性の担保にしている。
 また、例によって「水の記憶」事件 - Skeptic's Wikiのベンベニストを「彼の研究成果は化学者たちには認められず、ノーベル賞を与えられる代わりに弾圧され続けている」という陰謀論まじりの解説をしている。
 治療例は完全にホメオパシージャパンの宣伝であり、Webサイトで公開されているものと似たような症例紹介である。ホメオパシーで治療すると一時的に症状が悪くなるということ(好転反応)についても説明されていて、全く批判的な情報がない。同書では、他の章で帯津良一*1ホメオパシーに関していくつか文章を書いているが、いずれもホメオパシーの限界や問題点に関しての記述はない。
 この本にある情報だけでは、ホメオパシーは治療の効果があるのに認められていない代替医療であるかのように考えてしまう人もいるだろう。何しろホメオパシーを使っている人間が執筆者で、有効性があるという意見だけ書いてあるからだ。ちゃんとした治療効果のある標準医療を学ぶ学生の教科書には向いていない。補完代替医療の世界を単純に信頼してはいけないことを示す事例集としての価値しかない。 

*1:帯津は帯津で同書で丸山ワクチン、714Xワクチンなどの治療効果のあてにならないワクチンを紹介するなど定番の文章を書いている。