ナイフで敵を抑える技術

今回は前々から書こうと思っていた話題、ナイフで相手を抑え、コントロールする技術について紹介する。ナイフ格闘であまり知られていないが重要な技術に興味がある人、または実際に練習している人向けのコアな話だ。
以前、フィクションにおけるナイフ格闘のリアリティとリアル - 火薬と鋼で、「実際のナイフ格闘の技術では手の延長として関節技の一環に使う、相手を制御するといった技術が存在する」と書いた。ここでは、それについてもっと詳しく説明しよう。

相手をコントロールする

ナイフ格闘では、ナイフのブレードを相手の手足や首などに絡めたり押し付けたりして、相手の動きを抑えたり誘導したりする技術が存在する。これは、よく「トラッピング」と呼ばれるサバキの技術に分類される。
実際にどんな技法があるか、トラッピング技術専用にデザインされた特殊なナイフの紹介動画を見てもらおう。下の動画で紹介されているのはギャリソン・ファイティング・ナイフというサスマタ状のナイフで、トラッピング技術に特化した形状をしている。

ブレードを使って相手の腕を押さえコントロールしている様子がよくわかると思う。
こうした技術は上の動画のような特殊なナイフでのみ使われるのではなく、一般的なファイティングナイフでも使われている。この技をナイフの刃が付いている側でやれば、相手をコントロールしながら傷つけることが可能で、刃が付いていない側でやれば無傷で抑えることもできる。
こうしたテクニックは世界各国のナイフ格闘技術に存在する。フィリピン、インドネシア、マレーシアといった東南アジアでも使われているし、中世ヨーロッパの騎士のナイフ術にもこうした技術が存在している。下の中世のダガー術の動画もそうした例の一つだ。


相手をコントロールするためのデザイン

ナイフを使って相手をコントロールする際に難しいのは、「必要な時だけ相手の体から離れない」ことである。しかし、相手に簡単にナイフをはずされては困る一方、相手をちゃんとコントロールできなければならない。この点をカバーするため、工夫をこらしたファイティングナイフのデザインがいくつか存在する。


ひとつは、体を抑えるための切り欠きが設けられているものだ。

この写真はバド・ニアリーのPTKだ*1。日本でも今はなきPSC-NETで販売されていたので知っている人もいるだろう。ブレードの片側に切り欠きがあるダガーだ。
こうした円弧の切り欠きを相手の手足や首などに引っ掛けることで相手を保持し、コントロールするのである。


もうひとつは、相手の体が滑らないように細かい溝が設けられているものだ。カランビットなどでよく用いられている。下の2つのナイフはどちらも溝…セレーション(グルーブ)があるが、これは木やロープを切るノコギリではなく、人体を引っ掛けるためにデザインされたものである。

このセレーション(グルーブ)を使ったものは、どのような深さ・幅に溝を切るかが難しい。下手に作ると、衣類などに引っかかって扱いにくいものになる。このため、デザイナーによって様々な溝の形状や間隔がある。


この他、ブレードにフック(鉤)状の部位を作るということもある。下の画像の左のナイフがその例だ。

フックはピンポイントで引っ掛けなければならない点が難しい。


以上のようなデザインではなくとも相手をコントロールすることはできる。しかし、先細りの輪郭のナイフや短いナイフでは難しい。

番外:シャベル

シャベルにもこうしたテクニックが使えるものがある。

スナイパーブレードワークスのシャベル。切り欠きは鎌のように使うためのデザインだが、人の手足に絡め、コントロールすることにも使える。

*1:画像はディーラーSteel Addiction Knivesから