(2012-4-6 誤字修正と追記)
こんな記事があった。
殺傷力を追求?アメリカの恐ろしいナイフ「ツイスト・ダガー」 : カラパイア
カラパイアの事なので例によってひどい記事だ。つっこんでおこう。
公式サイトよりKnife Archive | Microtech Knivesカタログ
このナイフは、マイクロテック・ナイブズ社というナイフファクトリーの創設者Tony Marfioneがデザインしたものだ。Tony Marfioneはたまに量産品ではないカスタムモデルを作っている。このナイフも昨年Tony Marfioneがカスタムナイフとしてプロトタイプを作り、その後に限定生産で量産品が作られた。プロトタイプは2,000ドル程度、量産品は800〜1000ドル程で流通した。かなり高額なナイフと言える。
この値段だけであまり実用向きではない事がわかると思うが、記事の問題点はそこではない。以下、メーカーの情報やカタログの情報からみて特におかしな部分につっこんでみる。
「殺傷能力のみを追い求めて開発されたという」
そんな説明を私は全く見た事がない。
「メーカー側では「縄を簡単に切れるナイフ」という大義名分をつけている〜」
そんな説明を私は全く見た事がない。
この説明、上の「殺傷能力のみを追い求めて開発」という文と矛盾するのだが、それぞれ情報の出所はどこなのだろう。公式サイトやナイフショップの説明にはないし、検索してもみつからなかった。
「米国でも議論を呼んでいる」
カラパイアと同様に英語圏のWebニュースサイトが同じネタをリンクして話題にしているだけ。あれを議論と言っていいのかどうか。少なくとも合法性や危険性といった面で議論は起きていないようだ。
「メーカーに問い合わせをして身元を明らかにしないと買えない様にはなっている」
そんな事実はない。わざと身元確認が必要な大層なものであるかのように話を盛ろうとしているのだろうか。
限定品のこのナイフは、多くのディーラーで品切れ状態であり、そのため問い合わせや新着確認の登録といった手続きが必要になる事はあるが、いずれにせよ身元証明をするような事はない。
こうした事実と合わない説明はJagdkommando Dagger Has Twisting Blade For 100% More Killing | OhGizmo!等の記事で勝手に作られたもので、実際にはアメリカではこのナイフの危険性はそれほど話題になっていない。
このナイフはコレクションアイテム用の限定品であり、殺傷云々もどちらかというとイメージ優先のものだ。殺傷力がないというわけではなく、実際その種の用途に使えばそれなりの意味はあるが、欠点も多い。重さ約450gと同サイズの一般的なナイフの1.5倍ほど重く、特殊な刃は用途を限定する。何より高価で、ここまでの加工は実用品としては必要が薄い。
ちなみにこのナイフ、日本でも堂々と販売されたという事実がある。このナイフはステンレス製とチタン製の2種類あり、チタン製だとダガーナイフの形状でも銃刀法の規制対象にならない*1。こうした事情から日本のナイフショップでも輸入・販売された。