図書館委託と人員確保

図書館(公共や大学ほか)の民間委託について、人員確保の面から書いてみる。
図書館の民間委託について、色々話題になっているが、この点はあまり知られていないと思う。
複数の図書館委託企業で働いた経験を元にまとめてみた。

図書館委託の人集め

委託会社では「常に多くの人材をプールして契約が決まったら送り込む」という方式はあまりとらない。委託の契約が決まってから契約条件にあわせて募集を出し、人員を集める。この他に委託会社は登録制度と言ってフリーの人材を履歴書や面接などで登録しておき、契約が決まれば条件にあった登録者にも声をかける。また、他の図書館に委託として入っているスタッフに異動してもらうという事もある。
予定通りの人数やスキルの持ち主が常に揃うとは限らない。登録者は大体別の仕事についてしまっているか条件が合わない。ほとんどの場合は募集した人員と他からの異動で対処している。登録者が入る例は多くないだろう。
どのような方式で人を集めるにせよ、場所や給与、スキルの問題と絡んでなかなかベストな人材は集まらない。あまりに応募が来ない場合は再度募集を出す・給与を上げる・媒体を変える(有料の媒体に変えるなど)といった方法がとられる。「http://www5b.biglobe.ne.jp/~wir/」に掲載しているだけで人が揃うわけではないのだ。
そしてどうしようもない場合は委託会社の本社社員が引継ぎや業務に入って、図書館業務をこなすという事がしばしば行われている。

委託のスキル

委託会社では、入札・契約に関わる社員やパート・アルバイトの面接に関わる社員が図書館業務の知識・経験があるとは限らない。このため「顧客が本当に必要だったもの」のような齟齬がしばしば生じている(これは受注側だけの責任ではなく、発注側も説明不足や見通しの甘さを抱えていることがある)。
例えばある委託会社の担当は10年も大学図書館公共図書館の仕事に関わっているにも関わらず「公共図書館の取り寄せ業務と大学図書館のILL業務って同じじゃないんですか」と大学図書館の司書に質問していた。こういう大雑把な認識の人は珍しくない。
こうした業務知識の程度に加え、そもそも契約を満たすスキルを持っていない人を無理やり投入する例もかなりある。図書館司書資格を持っている人間は数多くいるが、現場に投入して即引継ぎ・業務ができる人の数は限りがあるのである。全くの未経験者であるとか、特定の業務しかしたことがないとか、色々な課題があることが多い。逆に「この給与でこんな有能な人がいていいのか」と思える優秀な人もいて(私が仕事をした人には図書館情報学留学経験あり・海外図書館勤務経験ありのパートだっていた)、この業界のバランスの悪さを感じることがある。
委託のスキルを一定以上にするため、委託で入る予定の人にあらかじめ用意した試験を受けさせ、合格者のみ認めるということをしている図書館もある。しかしそうした試験を行う図書館は稀で、こうしたスキルの問題は、試験よりも研修でフォローされる。これも研修体制や時間によってうまくできないことがある。そうなると現場に負担が押し付けられる。しかし委託発注側がそうしたOJTを認めないと大変なことになる。
委託スタッフのスキルは、特に人員を早く埋めなければいけない時や勤務条件が難しい場合(不規則な勤務時間や交通の便が悪いなど)に犠牲になることが多い。そういった条件の下では「埋められる人が面接に来たら即決定してしまう」ということがある。その結果、図書館に投入された人の能力に問題があって、他の委託人員や発注側から苦情が出るような事態になる。
この辺の話は前に書いた図書館委託のネック「引継ぎ」 - 火薬と鋼とも関連している。


図書館業務の委託は、発注する組織も受注する委託会社も、一定のスキルを持った人材の確保について希望的観測、見通しの甘さを抱えているところがある。安定したスキルや高度なスキルを持った人材を確保したいのであれば、それぞれがコミュニケーション、業務開始までの日数や契約内容、面接や試験、引継ぎ準備、研修など多くの条件を整える必要がある。