江戸しぐさを巡る人々と江戸しぐさの衰退『江戸しぐさの終焉』

江戸しぐさの終焉 (星海社新書)

江戸しぐさの終焉 (星海社新書)

原田実氏の『江戸しぐさの正体』の続編とでもいうべき本が出版された。早速購入。
前著の『江戸しぐさの正体』については以下に書いた。
広まってしまったインチキ江戸『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』 - 火薬と鋼
今回の『江戸しぐさの終焉』は、江戸しぐさの問題点、前著の後に明らかになった事情、その後の推移を整理している。
いくつかは続・江戸しぐさの正体 | ジセダイ―星海社がおくる、行動機会提案サイトに書かれた内容と重なっている。
前著を読んでいなくともわかるように問題を追っているので、これだけ読んでも大丈夫だ。
大きく分けると以下のような内容になっている。

  • 江戸しぐさの問題点。江戸時代にありえない内容や普及について。そして教科書・教材からの削除へ。
  • 江戸しぐさ推進の歴史。江戸しぐさを作った芝三光をはじめとする推進者や各団体の関わり、活動について。
  • ニセ科学と教育活動が結びついた「親学」と江戸しぐさのつながりについて。TOSSやサムシンググレートなどとも関わる教育問題としての側面。
  • 江戸しぐさの正体』後の反響。メディアや各種団体の反応、そして批判の広がり。
  • 江戸しぐさ推進団体の衰退やその後、推進団体を離れてしまった江戸しぐさの動向。
  • 江戸しぐさ問題の所在、責任、周辺の人々。そして終焉へ至る現状。

新書ながらかなり多方向から江戸しぐさ問題を追っており、面白さも様々な面で味わえる。
ニセ科学問題を知っている人にはTOSSや親学の問題は知っているだろうから、そのつながりからニセ科学と教育問題について理解しやすいだろうし、偽史問題やメディアの問題、教育行政の問題など、様々な問題と接続している。
江戸しぐさ推進者たちの分裂や優劣などは、まるで武術の流派の継承者の問題のような味わいもある。
江戸しぐさそのものは強い求心力を持った活動としては収まったが、ある程度定着してしまっていて見かける機会は多々ある。
また、今後もこの種のウソが広がろうとすることはあるだろう。
そうした問題に対するカウンターや参考例として、非常に価値のある本だと思う。