ナイフ格闘の練習と緊張について

昨日のナイフ犯罪への対処についての雑談 - 火薬と鋼の続き。
対ナイフ技術の練習経験について書いておく。
私の経験なのでほとんどシステマの話である。

  • ナイフを持った相手に対処する練習をやると、時々ナイフを不得手とする人がいる。
    • 多くの人は対素手の時のうまさと対ナイフの時のうまさが一致しているが、対ナイフだけ苦手という人もいる。
    • 大抵の問題はナイフに対する緊張が強いために起きる。
    • ある時、ナイフの突きを受け流す練習でナイフに対してひどく緊張している相手と組んだことがある。
    • その人はナイフにばかり注目し、必要以上にナイフを持つ私の腕を握って攻撃を止めようとしていた。
    • そこで何度目かの攻撃の時、ナイフを突くのを途中で止めてみたところ、それでもなお必死に私の腕を握ってナイフを止めているつもりになっていた。私が何もしていないままなのにずっと腕を握って頑張っていたので、説明して手を外した。
    • このように緊張によってナイフにとらわれると、相手が何をしているか見えなくなる。
    • ナイフの例ではないがシステマのインストラクターでロシアの特殊部隊SOBR出身のセルゲイ・オジョレリフ師が語った体験談*1を紹介する。

「セルゲイの班が犯罪者を捕まえていましたが、一人が何とか逃げ出して狭い路地のような場所に逃げ込みました」
「その犯罪者はそこから逃亡しようとしていました」
「路地の角にはセルゲイの仲間が待ちかまえていました」
「私(セルゲイ)達は、逃げ出した犯罪者がその角にたどり着くとすぐ後ろに飛びのいてボクサーの構えをとるのを見ました」
(ボクシングのスタンスのジェスチャー
「よく固めたボクサーの構えです」
「私達がそのボクサーの構えを見た時、少年が角から現れました」
「少年は驚いて『あっ、ボクサーがいる!』と声をあげました」
「そこで非常に軽い動きでAKのストックを犯罪者の額に打ち込みました」
(銃のストックを打ち付けるジェスチャーとストックを額に受け、ボクシングの構えのまま倒れるジェスチャー
「これは、人が固くなっているとこのようにはっきりした動きも見えなくなることを端的に示しています」
カラシニコフのストックが額に打ち込まれるような大きな動きも見えなくなるのです」

    • これほど極端ではないにしろ、ナイフも相手も見えなくなる人はいる。
  • もう一つの問題はナイフ固有の攻撃範囲、攻撃方法に対応できないことである。
    • ナイフは素手とは違った動きで攻撃可能で、攻撃範囲も素手とは異なっている。
    • しかし素手素手の時のクセでナイフ相手にはしないほうがいい対応をしてしまってナイフの攻撃を受けてしまう人がいる。
    • 咄嗟の時によくやる素手の時と同じ反応をしてしまう人がいるのである。
    • 対ナイフ格闘には知識が必要だが、これは知識だけではどうにもならないという事を示している。やり慣れた動きが出てしまうのだ。

*1:DVD『Movement and Precision』より。少し変更して引用。