ロシア武術システマの練習者が気になったネット小説のシステマ

昨年からロシア武術システマが登場するネット小説を記録していて、先日作品数が284タイトルに達した。
ここまで増えても「小説としてうまく扱っている」というのはあっても「リアリティがすごい」というのはほとんどない。
それはしょうがない事だし、私もリアリティよりは小説ならではのイメージや描写の工夫を読みたくて調べている。
しかし、中には「なぜこういう説明が生まれたのか」と驚くほど変わった内容の小説に出会うことがある。
そんな変わったシステマの説明の例を挙げてみよう。
当然だが、練習者から見て奇異な説明や描写ということはそれだけで作品として問題があるとか批判すべきというわけではない。

ステマ独特の構えが登場する

ステマにそれと見て分かるような固有の構えがあるネット小説は複数ある。
調べれば簡単にわかることだが、実際のシステマにはそんなものはない。
なお、システマに特に構えがないことを説明している作品もある。

ステマは対多人数戦闘に特化した格闘術である

ステマを紹介する際に対多人数戦闘の技術に言及する小説は多いが、そのニュアンスが極端になってしまった例。
多人数と戦う技術や練習があることと、それに特化していることではだいぶ意味合いが違う。
また、現実では対多人数戦闘があるのはシステマばかりではないが、まるでその種の技術がある格闘技はシステマだけであるかのように扱われている例がある。実際には集団で戦え〜第二次大戦の銃剣集団戦術から〜 - 火薬と鋼のように古くからそういう技術は各国で練習されている。

ステマのパンチは敵の骨にダメージを与える

ステマのパンチは骨に衝撃を伝えるものだという説明が出てくる例がある。
これは以前紹介したアニメ『ハヤテのごとく! CAN’T TAKE MY EYES OFF YOU』に登場したのと同じ説明だ。
『ハヤテのごとく! CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU』第二夜のシステマを解説する - 火薬と鋼

ステマではまず相手の膝を蹴るのが定石

ステマの技術を解説している作品は現実のシステマをうまく参考にしていることが多いのだが、稀に現実とかけ離れた内容が出てくる小説がある。
この最初に膝を蹴るのが定石だという説明はその中でもかなり突飛な例で、どこから出てきたか分からない。
特定の動画に出てきた練習を普遍的なシステマの戦法だと思ったのだろうか。

ステマ道場がボクシングジムっぽい

ある小説では町の中に「システマ道場」が登場し(正確には「○○システマ道場」で○○は人名)、道場の中にはリングがあってそこで練習や試合をしていた。
その描写・説明からはボクシングやキックボクシングなどの格闘技のジムを彷彿とさせる。
現実のシステマの団体で「システマ道場」を名乗る例はない(存在したとしても団体名としておかしくはないが極めて珍しい例になるのは間違いない)。
そしてその小説のシステマ道場はあらゆるスタイルが完全にボクシングジム形式なので奇異に思えた。
作者の格闘技の道場のイメージがそういうリングつきジムなのだろう。

リャブコ家の秘伝が登場

数十年後の近未来を舞台とした小説の脇役にシステマ創始者ミカエル・リャブコの子孫が登場するものがある。
その子孫が使うシステマは他と違って一子相伝と言うか、一族にしか伝わってない技があることが示唆されている。
まるで格闘漫画の古武術のような感じだが、システマの特性を考えるとちょっと無理がある(未来の話だし多少の飛躍は考えても良いので「ちょっと」)。
現実にはミカエルの子ダニールは次のように語っている。

人によっては私が上達するのを見て、父に深夜にジムに呼び出されて秘密のトレーニングをされているのではないかと言ってくる人もいますが、そのようなことは一度もありません。システマに来ている他の人たちと同じものしか自分は受けていません。
(『月刊秘伝』2014年2月号「“二世”対談実現!ダニール・リャブコ(システマ)×黒田泰正(振武舘)」より)

それよりミカエルの子孫を登場させるというアイディアは考えてもみなかったもので面白い。