ニューヨーク市警の命中率から

玄倉川さんの秋葉原通り魔事件の警察官の対応と銃についてのエントリ「据物撃ちなら誰でもできる」を読んで、ちょっと思い出したことがある。かつて月刊Gun誌にニューヨーク市警NYPDの警官の距離別命中率が出たことがあって、その値が低かったのだ。バックナンバーから探すのは面倒なのでGoogleさんに英語のデータを探してもらった。
http://www.theppsc.org/Staff_Views/Aveni/OIS.pdf
こちらのPDFファイルの7ページ、上から2番目の表を見てほしい。これは1994年から2000年にかけてのNYPDの距離別命中率である。距離はヤードで、1ヤードは約90cm。

距離 0-2 3-7 8-15 16-25 25+ 不明
命中率 38% 17% 9% 8% 4% 2%



かなり数値が大雑把な表だが、こうして見ると至近距離でも大半が当たらないことが分かる。もちろん日本とは銃も訓練時間もシチュエーションも異なるはずだが、一般人が想像する以上に近い距離でも当たらないものなのだ。他の警察署のデータも(距離別ではない)検索するとみつかる。例えばNY市警の発砲数は減少傾向〜人権団体の公開要求で判明(U.S. FrontLine)にはロス市警の発砲数や命中率が出ている。
警察官による発砲の命中率は概して30%前後だ*1。プレッシャーがかかる状況では、当てるのは難しいということだろう。そして当たらなかった場合―特に秋葉原のような混雑では―流れ弾による被害が出るかもしれないのだ*2。発砲の判断や責任というのはかなり難しいもので、議論は尽きることがない。ただ、議論する上で「当たらない可能性が結構ある」ことと「当たらなかったときに何が起きるか」は考慮したほうが良いと思う。
tonboriさんの「拳銃は最後の武器」で提案されてるTaserを使うというのは一つの案だと思う。ただしTaserには装弾数の少なさや効果の限界といった欠点もある。一応一定の有効性はある程度認められていて欧米の警察でTaserの採用例が増えて*3実績を上げているし、検討する価値はあるだろう。Taserの情報については知るには公式サイトと、頑住吉さんが紹介している雑誌記事訳「テイザー」がある。
(追記)
Taserの採用についての注を公式サイトの情報にあわせて修正。文章もちょっと訂正。
(補足)
関連した他のブログのコメントやらはてブやらを見ていると、現実にありえない装備の案が出ていて無性に腹がたつ。素人が考えるような品は、現実味がないか既に存在しているかのどれかだ。昔、2chの軍事板に通っていた時、知識も想像力もない人間がしばしば「ぼくがかんがえたさいきょうへいき」にこだわっておおいに住人の哀れみと蔑みを買っていたものだが、その時のことを思い出した。
加えて、シチュエーションに対する想像力がなさすぎる。一回きりのくじ引きやってるんじゃないんだぞ。複数の警官が単独犯に撃つとか、複数の弾が一人に当たるとか、様々な状況があることを忘れている人間がいる。それと、はずれた時(あるいは当たった時でも)流れ弾で死傷者が出る危険性をまるで無視したコメントがいくつもあるのはどういうわけだ?
あと一つ。威嚇射撃にこだわる人間が多すぎ。なぜ威嚇射撃が有効だと思うのか、それが不思議でならない。海外に威嚇射撃が全くないなどとは言わないが、そんなに有効なものだとして主張するのは日本人くらいではないか。下のJapan Timesの投稿は日本の警察の威嚇射撃を批判しているが、これがよくある考えだ。
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/rc20011212a2.html:itle

*1:20%という例も多い。Tactical Shooting: How to find the right tactical shooting system for your agencyなど。元データが分からないが、統計の仕方が違うかも。なお、こうした命中率は相手も銃を撃ってくると下がる傾向がある。日本の警察の命中率はもっと良いかもしれない。

*2:可能性は下がるが、当たっても貫通した弾で周囲に被害が出ることも想定できる。足元を狙っても地面で跳弾することがある。

*3:アメリカにある18,000以上の公的機関のうち、12,000以上の組織で配備。4,500以上の組織でパトロール要員の常備品として配備。公式サイトFAQより。