http://medt00lz.s59.xrea.com/wp/archives/date/2008/11/06
医療問題等を扱うブログである「レジデント初期研修用資料」で、大口径ライフルによる長距離狙撃について言及されていたのだが、ちょっと間違いがあるので指摘しておく(→自分の間違いがあったので再追記。意味のない指摘をしたことをお詫びします)。こういう話は他でも信じられている可能性がある。
最近の対物ライフルは、有効射程 2000m、最大射程 2400m。動画サイトを探すと、レポーターの人が普通に 2300m 狙って的に当ててた。この距離はちょうど、「本気を出したゴルゴ13」と同じぐらい。
レポーターが普通に2300m狙って当てられることはない。→再追記で訂正
狙撃の最長記録というのがあって、これは現在、2002年にカナダ軍のロブ・ファーロングが2430m先の敵を射殺したのが最高とされている。使用された銃はマクミランTac-50というアンチマテリアルライフル。
2002年にこの記録が生まれるまで、1967年のアメリカ海兵隊のカルロス・ハスコックによる2286mが最長記録だった。これは現在2番目の順位だ。
こうした記録を考慮すれば、例え戦場ではない静止目標相手であったとしても、レポーターが2300mもの長距離狙撃で容易に当てられないことは想像しやすいだろう。ちなみに50口径(12.7mm)ライフルを使う競技では標的との距離は1000ヤード(914.4m)に設定されていることが多い。
大口径の銃が人間に向けられて、狙撃用途に使われたのは、フォークランド紛争が始まりらしい。
もっと前から大口径長距離狙撃はある。
上述のハスコックの記録もM2重機関銃にユヌートルのスコープを載せた狙撃で達成されたものだし、もっと遡って大戦中に対戦車ライフルで対人狙撃が行われた例がある。
そしてアンチマテリアルライフルで最も有名なバレットM82の開発開始は1982年以前でフォークランド紛争より前である。
そもそも、かなり以前から警備対暗殺者の話は周辺の状況、条件をどう把握し、利用、コントロールするかという話だ。『ジャッカルの日』だってそうした構図だった。アンチマテリアルライフルによって前提となる舞台装置が変わるというのは程度問題でしかなく、舞台装置に激変をもたらしたりはしない。ライフルを暗殺に使うメリット・デメリットの問題と基本的に変わっていない。
アンチマテリアルライフルは、それ自体暗殺に不向きな要素(重厚長大で銃声が大きい→狙撃ポイントまでの移動・逃走に不利)を持ち、長距離狙撃もまたいくつもの難点(弾道の誤差は長距離ほど大きくなる。長距離の射線を確保しなければならない。影響を与える要素が増える等)を抱えている。このため、アンチマテリアルライフルによる長距離狙撃が知られるようになった現在では、こうしたアンチマテリアルライフルや長距離狙撃の問題点をどう克服あるいは利用するかがフィクションの見せ場となっている。ゴルゴ13がアンチマテリアルライフルを持った相手と戦う話*1、ゴルゴ13がアンチマテリアルライフルを使用する話*2もそうした要素を重視していた。
逆に言うと、そうした問題点があるためにアンチマテリアルライフルを暗殺に持ち込むのはフィクションでも困難になる。あのエントリの内容は、アンチマテリアルライフルのデリット抜きに従来のライフルによる暗殺のように利用できることを想定しているように思える。
あのエントリの最後の話をするのにアンチマテリアルライフルと長距離狙撃の例を持ち出すのは不適切だな、というのが私の感想だ。
(2008-11-9追記)
元ネタであろうドキュメンタリー(Future Weapons)のXM109の部分を見た。あれは「2500ヤード(2286m)先を撃てる」ことを説明してはいるが、実際に屋外・屋内で試射したシーンはどちらもそんな長距離ではない。説明と実際に試射した距離が違うことから生まれた誤解だと思う。もし狙撃手がXM109を使っても、2000mを超す長距離狙撃では人間大の標的に簡単には当てられない。
何しろXM109の命中精度は600mで2.53MOA、800mで3.33MOAなのである*3。長距離対物狙撃銃としては優れているが、対人狙撃銃として考えると命中精度が低い(例えば米軍採用のセミオートスナイパーライフルであるKnights M110 SASSの命中精度は600mで1MOA以下、0.5〜0.75MOA程度とされている)。
(2008-11-9再追記)
CheyTac社のInterventionを紹介した回だというので、そちらも見た。2530ヤード(2313m)の距離でマンターゲットに6発中3発当てている。確かにあの銃は特別で、当エントリの最初の私の指摘は間違いだった(あわせて最初の追記は指摘としては全く関係ない話だということになる。このエントリの半分は意味がない)
同社の公式情報では 2100ヤード(1920m)で19インチ(48.3cm)、2400ヤード(2195m)で29inch (73.7cm)のばらつきがあることが報告されている。こうした突出した数値は、銃そのものの性能に加え、照準サポートシステムやソフトウェアも含めたパッケージが優れていることを意味している。なお、CheyTacのこの狙撃システムはあくまでソフトターゲット=対人狙撃を目的としており、CheyTac Interventionはアンチマテリアルライフルではないことを間違えた言い訳としておく。
*1:「新法王の条件」第112巻収録
*2:「宴の終焉」第150巻収録
*3:MOAについては軍事板常見問題&良レス回収機構より命中精度としてのMOAの解説が分かりやすい。XM109の精度はNDIAの2004年シンポジウムの25mm Anti-Material Payload Rifle (AMPR-XM109)のスライドが出典。