ダガーナイフの定義の難しさ

 一般に、ダガーと言えば両刃のナイフのことを指す。
 が、ややこしいことに両刃ではないダガーも存在する。
 そして両刃であってもダガーと呼ばれないナイフも存在する。
 このためダガーナイフの規制が問題になるとき、気になるのは「ではどこまでが法規制される形状なのか」ということだ。
 どうしてそんな問題を気にするのか、一般の人にもわかるように解説してみよう。

ダガー (dagger)

 まず、ダガー全般について話をしよう。
 現代では一般に両刃のナイフのうち、左右対称のデザインのものがダガーだとみなされる。
 しかし歴史的には片刃のダガーというのはしばしば存在している。
 ダガーの古い辞書的な意味は「刺突のための鋭い切先をもつナイフ」となっており、要するに刺すためのナイフは全てダガーと呼ばれてもおかしくないわけだ。
 最も、両刃ではないダガーはマイナーなので、single edged daggerのように形容されることが多い。
 古い時代の刀剣のダガー、あるいはフォールディングナイフやオートマチックナイフのダガーには片刃のものが見られる。
例:http://www.cgraytaylor.net/graphics/folders/folders29.jpg C.Gray Taylor作のシェフィールドスタイルのフォールディングダガー
 こうしたダガーは(形状にもよるが)、ダガーが法規制されている国・地域でも合法なことがある。

ダーク (dirk)

 日本では馴染みのない刺突用ナイフとしてダークがある。
 スコットランドの刺突用短剣がもともとの意味で、その後刺突用短剣はしばしばダークと呼ばれるようになった(特に17〜19世紀に各国の海軍が短剣をダーク=naval dirkとして採用した)。
 この海戦用のダークという語は意味を拡散させ、両刃のものも片刃のものもダークと呼ばれるようになった。
 また、アメリカでは州法でダークの所持を規制している州があるが、この場合のダークは両刃のナイフのことを指している。

左右非対称の両刃のナイフ

 左右非対称の両刃のナイフは一般にダガーとは呼ばれない。
 しかし海外の規制の事例を見るとダガーが規制されるような法律では、しばしばこうしたナイフもある程度規制される傾向がある。
 非対称の両刃のナイフが問題をややこしくするのは、片側の刃がかなり鈍い刃であったり短い刃であったりして、規制対象となるかどうか曖昧な部分があるためである。
 例えば
https://www.kabar.com/images/1217_large.jpg KabarのUSMCナイフ
 このナイフは背の側に鈍角の短い刃がついている。
 この程度ならダガーが規制されている国・地域でも許容されることがある。
 では、どの程度のものまで許容されるかとなると、判断が難しい。

両刃とは何か

 さて、これまで両刃かそうでないかについて説明してきたが、そもそも「両刃」とは何だろうか。
 多少刃物に通じている人間ならば具体的な説明ができるが、一般の人の理解は意外といい加減だったりする。
 要するにエッジ(小刃)がついているかどうかとブレード(刀身)が削られているかどうかの問題だ。
 ダブルエッジ(double edged)か、ダブルグラインド(double ground)か、実は法律ではそこまで明示されないことが多い。
 エッジとグラインドについて分からない人もいると思うので例を挙げよう。
http://www.boker.de/us/images/gross/01mb221.jpg
 このBoker社のフォールディングナイフを一見してダガーだと認識する人が多いはずだ。
 しかし実は切れる刃(小刃。エッジ)がつけられているのは片側だけだ。
 左右均等に削られ(グラインドされ)ているが、片側しか切れるように(エッジ付け)されていない。
 では、このナイフはダガーとして規制されるのだろうか。
 規制される国・地域もあるし、そうではない国・地域もある。
 もっと厄介なのは、こうした「切れる刃がついていないが削られてはいる」形状で、左右非対称のナイフがどうなるかが分からないということだ。
 実際にはそうした曖昧な部分は法律に明記されることはなく、今後の取締りや裁判で明らかになるか、あるいは過去の判例から予想するしかないのである。
 しかも日本では波刃・鋸刃は規制される刃とみなされない規制だったため、そうした部分も含めて今後の規制内容が具体的にどうなのかが余計分かりにくくなっている。
 そう言えばチタンナイフの両刃は規制対象外だったが、あれも今後どうなるのか分からない。
 つまり、法的な「ダガーの規制」では、こうした要素が絡んでダガーと呼ばれても規制されないもの、ダガーと呼ばれないのに規制されるものが出てくるのである。
 商品名称、一般的な概念、法規制の対象にはそれぞれ若干のずれがあり、それが規制を気にする製造者や愛好者の頭を悩ませることになっている。
→フォローアップダガーナイフ規制の実態と今後 - 火薬と鋼