二次創作SS追想

 増田の(男性向け)ネット二次創作SSでの人気作品の移り変わりというエントリを見て、ちょっと抜けている要素があると思ったので書いておく。
 色々な分野を知りすぎていて今一つまとめにくいため、書いていてかなり散漫になってしまった。


 エヴァンゲリオンのSSがWebで見られる頃に前後して、それとは若干違うコミュニティとしてエロゲー、ギャルゲーのSSが存在していた(もちろん両方兼ねている人もいたが)。エロゲーで言えばかつてはエルフの同級生シリーズのSSが多くの作者・読者を擁していたし、その後コンシューマのギャルゲーとしてときめきメモリアルのSSがかなり存在していた。
 まだキャラクター性のあったエロゲーと、主人公のキャラクターの薄いコンシューマのギャルゲー、この二つの方向が微妙に重なりながら存在していたのがこの時期だ。
 後にToHeartKanon(まあ、その前のゲームにもあるが)の時代になると主人公は個性を持ったキャラクターとして確立したものばかりとなり、逆に恋愛シミュレーションに見られるキャラクターの薄い主人公は少数派となっていく(その後、恋愛SLGはコーエイやときメモGSのために女性向けのジャンルとなった。サクラ大戦はキャラクター性があっても女性向けばかりだ)。
 しかしキャラクター性が強い主人公に自分の願望や欲望をどのように仮託できるだろうか。この辺から性格の変更やクロスオーバーによる全能感の追求が生じていた、と考える。また、オリジナルキャラクターを登場させ、そのキャラに自分の願望を仮託するというものも生じた。


 こうしたオリジナルキャラ、クロスオーバー、設定改変といった要素は、いくつかのジャンルで一定のコミュニティとして存在するものとなった。エヴァナデシコの二次創作に見られる逆行物などもそれと同じことである。ちなみにこうしたSSはジャンルが衰退しても書かれ続ける。こうしたSSが増えることは衰退の前兆といってもいい。
 以上は男性向け二次創作の話だが、こうした設定を大幅に改変するSSが書かれ、読まれる背景には女性向けのドリーム小説と近い心理があると思う。共通点は、どちらも書いている年齢層が低い。どちらも同人誌には直結しない*1。そして作者の欲望の主体として行動するキャラクターがストーリーの中核にいることだ。男性向けのこうしたSSは投稿サイトに多く集まるのに対して、女性向けのドリーム小説は個人のWebサイト、ケータイサイトに作られると言う違いがある。欲望の内容にも違いがある。男性向けではオリジナルキャラクターや性格を改変されたキャラクターはしばしば登場人物に説教し、あるいは力を誇示する。そして妙に禁欲的であったり暗い過去を持っていたりする。厨二病と揶揄されるような特徴を兼ね備えている。女性向けのドリーム小説は、これとは若干傾向が違うがうまく言語化できない。
 あとハリーポッターの女性向け二次創作は、映画からはいっている人が圧倒的に多い。児童文学とか関係なく(男性向けでライトノベルのSSというよりアニメ化されたライトノベルのSSが多いのと同じ理屈だ)。だからハリーポッターのSSがあるサイトには映画に出演している俳優のSSがよく並存している。映画やドラマの二次創作という分野は、女性向けならではのものだろう。特撮物も多い。
 元増田は触れていなかったが、クロスオーバーや逆行物を多く産んだジャンルとしてGS美神がある。エヴァナデシコ、GS美神、ネギま、こうしたジャンルは一時より衰退したが、クロスオーバーや逆行物、オリジナルキャラクターを中心としたSSを産むコミュニティは生き続けている。中心的な投稿サイトが消えない限り、新たな書き手が再生産され、死ぬことはないだろう。


 なお、男性向けだろうが女性向けだろうが登録式のディレクトリ型サーチエンジンが根強いのはどこの二次創作でも同じである(ただし、女性向けのほうが細かいジャンルまで整備されている傾向はあると思う)。二次創作とエロは未だにGoogleが役に立たない分野なのだ。むしろ「〜同盟」のようなかたちで特定のキャラやカップリング、傾向を好む人間のコミュニティが無数に存在し、どのコミュニティにいるのかを誇示するというのが女性向けの特徴ではないだろうか。


 その他のジャンルについて。
 「マリア様がみてる」について触れられていないではないか!しかしかなり限られた人のしか読んでいないのでマリみてには触れない。シスプリもね。ライトノベルのSSの話も触れていないし、とらは・なのはにも触れていない。
 ニコニコ動画が普及する前、アイマスの二次創作SSも短期的に色々なものがあったのだが、あの作者たちはどこにいったのだろうか。二次創作SSというのは、ジャンルより先に作者が長持ちしない。ジャンル自体も、そう何年も多くの作者・読者を生み出す力を持ち続けるわけではない。


 まとめ。
 衰退しないジャンルはないが、後で読み返すほどのSSもまずない。


 All those moments will be lost in time, like tears in rain.

*1:二次創作SSと同人誌の世界はつながりがあるが、ジャンルによって色々とあるのでちょっとまとめられない。