マクガバン・レポートに関するメモ (追記あり)

 幻影随想: マクガバン・レポートとは2009-07-27で紹介されたマクガバン・レポートについてのメモ。


 1977年に報告されたアメリカの食生活指針・マクガバンレポートでは「元禄時代以前の日本の食事」を理想とするという話がしばしばマクロビや日本の伝統を推奨するWebサイトに紹介されている。
 しかし本当にこの記述があるのか。日本で勝手に書き加えられた可能性がある。
 (仮に原文にあったとしても栄養学的に価値のあるものだとは思えないが)
 この問題について、とりあえず参考になりそうな情報のメモを残す。

(1)マクガバン・レポートそのものについて

レファレンス協同データベースに邦訳図書の情報があった。
http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000031057
http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000013999
 全訳ではない。また、英語の本では限られた大学図書館にしかない。

(2)元禄時代に言及して紹介した事例

・新谷弘美『病気にならない生き方-ミラクル・エンザイムが寿命を決める-』(サンマーク出版、2005)
キッコーマン食文化セミナー(2006)の「日本型食生活の変遷 和食文化は世界の長寿食・健康食としてさらなる変容をもたらすのか」(講師:渡辺善次郎)]
 http://kiifc.kikkoman.co.jp/foodculture/pdf_13/j_002_006.pdf
・太田保世『理想の食事 武玉川に見る元禄の食事とマクガバン・レポート』(東海大学出版会、2009)
※著者はhttp://mytown.asahi.com/fukushima/news.php?k_id=07000150809290001でも同様の事を書いている。

(3)マクロビと元禄時代

・久司道夫の本など、少し前のマクロビの本でもマクガバン・レポートについての言及はあるが、同レポートに書かれた元禄時代以前云々については書かれていなかった。
・海外のマクロビのサイトでも、マクロビ推奨の良い根拠になる筈なのにマクガバン・レポートに書かれた元禄時代や江戸時代の食事について言及した例がみつからない。
英語圏のマクロビで江戸時代を賛美した例はあるが、マクガバン・レポートと関係なく別個に書かれている。
・元禄以前の賛美は、日本語サイトでは元禄時代に精米技術が普及して脚気が広がったという話と関連して説明される。
 なお、「元禄時代以前」ではなく「元禄時代」としている例もある。
 都市伝説のようなもので伝聞や記憶違いで分岐・派生したのだと思う。

(4)推測まとめ

・恐らく元禄時代以前を理想とするという記述は元のマクガバン・レポートには無い。
・マクガバンレポートが理想とする食事は元禄時代以前の食事のことだと勝手に当てはめて「マクガバン・レポート元禄時代以前の食事を理想とした」という話が広まったと推測。
 記憶違いか、意図的にか元禄時代以前という記述がレポート本文にあるかのような話ができあがったのだろう。
・この話を最初に広めたのはマクロビ関連(または類似の健康法関係)の人間で、中でも新谷弘美はかなり重要な位置を占めているのではないか。
・派生パターンとして「元禄時代以前」ではなく「元禄時代」と間違えた情報も広まったのだろう。


 ひとまず断定できる情報がないので、これから(1)、(2)の本を読んで確認してみよう。


(2009-7-29追記)
 マクガバン・レポートの一部のPDFファイルがあった。
 http://zerodisease.com/archive/Dietary_Goals_For_The_United_States.pdf
 概要部分だけだが、目標も掲載されているので参考にはなる。
 

 はてなブックマークのNATROMさんのコメントより、マクガバン・レポートには「5000ページに及ぶ」といった根拠のない形容がつくことがあるとの情報をもらった。
 もちろんこのページ数はでまかせだ。
 米国議会図書館の検索で見たところ、Dietary goals for the United States*1のページ数は79ページ(第2版*2は83ページ)、Dietary goals for the United States, supplemental views*3でさえ869ページでしかない。
 最初に5000ページと書いたのは誰なのだろうか。
 こうした出所不明の情報が伝聞で伝わるあたり、まったく都市伝説のようだ。


 続き→マクガバン・レポートを巡る伝説 - 火薬と鋼