先日購入した映画評の同人誌、Bootlegの感想を。
コピー誌『WE DID IT!』
侍功夫さんによる同人誌発行までの苦悩と皮算用の日々がつづられている。あと執筆者の自己紹介とか。
深町秋生先生にゲラを送ってあとがきにする予定だった旨が書かれているのもこちら。
深町先生にはまえがきより本文に映画評書いてもらったほうが良かったと思う。
それはともかく、折り本にするよりこの折り本の文章を同人誌本体の前書きか後書きにしたほうが良かったのではないだろうか。
ロバート・ゼメキス
侍功夫さんによるロバート・ゼメキスの軌跡を追う評論。
この評の白眉は、「ユーズド・カー」で興行的成功を得られなかったゼメキスが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で成功するまでの経緯と、同シリーズの妙を追った文章だ。
映画を映画単独の脚本や演技だけではなく、社会や企業、製作者の都合や思惑といった側面も織り込んで解説した評として独自性もあり、面白い。
しかしサブタイトルや前振りに出した「フォレスト・ガンプ」やゼメキスの"人間嫌い"といった部分への解説は少ない。
ブロディ一家を執拗に追い続けるジョーズ軍団
とみさわ昭仁さんによる「ジョーズ1〜4」の映画評。
私のような男は全部観ているし、映画秘宝でもネタにされていたのであまり新味がない…。
(「ジョーズ4」という名前よりも「ジョーズ87復讐編」というタイトルのほうを覚えていて、「4」なんてあったっけと思ってしまったが)
ポイントはシリーズ化によってサメとの因縁が作られてしまったブロディ署長一家の悲劇が、悲劇を通り越して喜劇になっているさまだ。
これを読んでジョーズシリーズを見たくなる人が出てくればいいなあ。
カーティス・ハンソンの世界
真魚八重子さんによるカーティス・ハンソンのフィルモグラフィーを追った文章。
多少映画が好きなら映画自体は知っている、しかし監督名は忘れられているハンソンの作家性を分析している。
ハンソン独特の感性や性的倫理観を追った映画評というのはそうそう無いのではないだろうか。
しかしハンソンが「ダンウィッチの怪」で脚本デビューしていたというは(以前どこかで見たがすっかり忘れていて)驚いた。
十七歳から遠く離れて
伊藤聡(空中キャンプ)さんによる「ロミーとミッシェルの場合」を中心にスクールカーストに区分された人々の過去と現在の心情を追う文章。
伊藤さんの映画評は他の執筆者の映画評とは異なり、映画の登場人物の心理を解き明かし、感情移入といっていいほど内面に潜り込むものだ。
スクールカーストの中での輝きとその後を嘘で取り繕う「かましたい気持ち」。
そしてそこからの脱却を語ることで、映画そのものを観たくなってくる文章だ。
エンドクレジットの世界
ギッチョさん(破壊屋)による映画のエンドクレジットの世界の解説。
破壊屋さんで一部が既に紹介済み(http://hakaiya.web.infoseek.co.jp/html/2009/20091115_1.html。
やはりクレジットに凝っている例は日本、アメリカが多く、映画秘宝や映画評の掲示板でも既に話題になったものも多い。
だがこうして一覧で並ぶとギッチョさんの軽妙な解説とあいまって面白い。それにしても日本にイタい例が多いような…。
男はつらいよ全48作を全部見たっす
マトモ亭スロウストンさんによる「男はつらいよ」全シリーズについて今まで語られていない要素や背景についての文章。
今回参加者の中でも屈指の面白さ。「男はつらいよ」の通俗イメージに異議を唱え、独自の側面を切り出している。
高倉健版「男はつらいよ」以降の妄想の暴走もさすがマトモ亭の人だと思わせる内容。
しかし挿絵の「アキバくちゅくちゅ慕情」というサブタイトルはどうかと思う。
80年代のこと
ふるにゃん(古澤健監督)による私的映画体験エッセイ。
80年代東京、ふるにゃんによる少年時代の映画認識や体験が思い出としてつづられている。
80年代に映画館に通った人にお勧めしたい文章だが、それだけでなく最後のくだりの情感は素晴らしく、必読。
王と神に戦いを挑んだ男たち〜ジャッキー・チェンとハロルド・ロイド〜
侍功夫さんによるジャッキー・チェンをその乗り越えるべき壁との対比の上で解説した文章。
宣伝に見えた「王」の文字で「ああ、ジミー・ウォングだな」と思った私のような人間が大喜びする内容。
カンフー映画だけでなく、ロイドやキートンといったコメディ映画の中のアクションを背景として取り込んだ評が面白い。
リブート!
ギッチョさん(破壊屋)による仕切りなおし、俳優や設定を改めてリセットされた様々な映画についての解説。
この種のリブートというととかくアメコミ映画が多く(何しろ原作のアメコミがリブート同然のことをしばしばしているので)、解説もそうした映画が中心になっている。
リブートされる一因…ツッコミどころの多い問題ある映画への指摘が短くも的を射ていて面白い。
日本でリブートが多い時代劇映画について触れていないのが惜しい(「子連れ狼」とか。最も時代劇にはシリーズ化されていないものも多いから趣旨と違うかもしれない)。
スピード見るなら『1』よりも『2』!
とみさわ昭仁さんによる「スピード1〜2」評。
「スピード」のバスがジャンプする場面と「トラック野郎」でトラックがジャンプする場面の対比、それに「スピード2」の船を怪獣とみなす視点など、とみさわさんならではの切り口が楽しい評論だ。
最後の挿絵が「ゴースト/血のシャワー」(デスシップ)なのはやりすぎかも。
読者があれを「スピード2」と勘違いしてレンタル屋で借りてしまうかもしれない。
僕に影響を与えなかった映画
ふるにゃん(古澤健監督)による「ニンジャリアン」評。
「ニンジャリアン」というと映画秘宝でもかつて紹介された微妙な映画だが、この映画についてこれほど面白い評が書けるのはふるにゃんしかいないのではないだろうか。
宇宙人の妄想にとりつかれたマーティン・ランドー演じる「軍曹」とそれと微妙に噛みあわない状況、そして登場人物の対立といった要素は確かに面白い。
しかし今となってはこれも見る機会が滅多にない映画だ。
『ビッグ』で語る非モテ論
伊藤聡(空中キャンプ)さんによる「ビッグ」を中心の男女の意識差を追った文章。
しかしこれは映画から読み取れる「子ども」の強みと「大人」のズレの解説であり、もちろんこの文章に従ってもモテ/非モテの問題が解決するわけではない。
(大体、13歳であんなメンタリティの子どもはまずいない)
子どもの心を持った大人を演じるトム・ハンクス映画に通底する大人と子どもの認識を男女問題、仕事といった面から見た文であり、
それはさておきあのオチはどうかと思う。
(シークレット・コラム)
マトモ亭スロウストンさんによるコラム。
ブログのように「!」が多かったり鈴木早智子について語っていたりする。
要するにいつものマトモ亭の人の文章である。
出張!とかくめも Living in Films
各映画評の間、4ページに描かれた永岡ひとみさんによる映画イラストコラム。
テーマごとに描かれており、「衣・食・住」そして動物と、順番も考慮されている。
濃厚な面々の間の清涼剤。
この人がいなかったらひどく読みにくい同人誌になっていただろう。
鉄板映画リスト
映画評に合わせてコメディ篇、人喰い篇、カンフー篇、クライムサスペンス篇の各種テーマ別にはずさない映画を紹介。
執筆者が書いてないけど*1、普通では選ばれないような映画も含まれていて独自のセンスを感じる。
しかし異論も出てきそうなチョイスだ。