アメリカ海兵隊でアフガニスタンに派遣されている特殊部隊向けに新しい5.56mm口径のSOST(Special Operations Science and Technology)弾が採用されたという記事がMarine Times等に掲載され、話題になっている。
http://www.marinecorpstimes.com/news/2010/02/marine_SOST_ammo_021510w/
開発時からMk318 MOD0の名称で知られるこの弾は、今後も大量の購入予定があるという。
さて、「火薬と鋼」ではかなりの銃器ニュースを紹介しているが、実際には世界に流れている情報のうち極少数しか紹介できていない。
軍用弾薬も紹介していない分野一つで、今回の件に関わる過去の報道も紹介してこなかった。
フォローとしてこの新しい弾がどう新しいのか、なぜ求められるのかを簡単に紹介しておこう。
まず背景。
米軍では近年M16アサルトライフルやM4カービンの性能(信頼性その他諸々)に不満を抱いており、他の銃との比較も含め調査研究をしばしば行っている。
いくつか関連記事は紹介した。
米陸軍のM4の対抗馬のテスト結果 - 火薬と鋼
米軍小火器の問題点と解決について - 火薬と鋼
米陸軍でM4カービン変更の要望 - 火薬と鋼
米軍では銃本体と同様、弾(5.56x45mmだけでなく7.62x51mmも)の調査研究も行われており、その辺は(主に翻訳が面倒だという理由で)紹介してこなかった。
2002年に始まった米軍のライフル弾についての研究結果を簡略に説明すると、現行のM855は、現代の流行である短い銃身のライフル、カービンに適合せず、射程や殺傷力に問題があるということだ。
↓のPowerPointのファイルが図やバリスティックゼラチンの写真つきで分かりやすい。
http://www.dtic.mil/ndia/2003smallarms/bux.ppt
何しろ米軍用の5.56x45mm弾であるM855は1970年代に開発された弾で、使われたのも銃身が20インチ(50.8cm)のM16アサルトライフルだ*1。
しかし現在主流のM4カービンの銃身は14.5インチ(36.8cm)、M4の後継候補FN SCAR-Lのスタンダードモデルでは13.8インチ(35cm)で、かなり短くなっている。
(もちろんライフリングのツイストは弾に合うように設計されていて、単純に短くなったわけではないが)
こうした背景から、国防総省は短い銃身の銃に適合し、命中精度や殺傷力が高い弾の開発をFederal Cartridge社に求めていた。
その結果開発された5.56x45mmのMk318 MOD0と7.62x51mmのMk319 Mod0については下のPDFファイルが詳しい。
http://www.dtic.mil/ndia/2009infantrysmallarms/tuesdaysessioniii8524.pdf
今回採用が決まった弾は、Federal Cartridge社の狩猟用のTrophy Bonded Bear Clawという弾に類似している。
先端だけ鉛が露出し、他は銅で覆われている弾で、こうした特徴を持つ弾頭はオープンチップと呼ばれる。
ホローポイント弾やダムダム弾とは違うのだが、それに近いので、ハーグ陸戦条約上問題があるのではないかとの声もある。
ただ、小火器の銃弾のこの種の問題はグレーゾーンが多く、問題視されても厳密な規制・制限まではなかなか至らないだろう。
*1:昔の規格のままというわけではなく途中で改良されてM855A1になってはいる