USBを悪魔の印とした教団は存在するのか

 先日、ブラジルのキリスト教原理主義者団体がUSBを悪魔崇拝者の陰謀だとした記事がネットに流れた。
http://alfalfalfa.com/archives/1471806.html
ブラジルの福音派キリスト教団、USBのマークは悪魔の刻印であるとし使用を禁止 : カラパイア

 USBのマークは悪魔の槍の印だというのだ。宗教団体にはときに突拍子もない主張をする人間がいるから、これもその類のニュースかと思われた。しかし私はこの記事を読んでいてどうにも疑わしく思えてきた。Bluetoothはキリストの目が青いから大丈夫とか、あまりにオチがうまく出来すぎている。それとコンピュータ技術を悪魔と結びつけた怪しいニュースは過去に前例がある。

悪魔が宿るコンピュータ

 2000年3月頃から、コンピュータに悪魔が宿るという主張をした人物の情報がネットに流れた。
一例 Digital Demons
 Jim Peasboro曰く、アメリカのコンピュータの10台に1台は悪魔に支配されているとか、コンピュータが古代メソポタミアの言語で神を冒涜する言葉をタイプしたとかいった現象が起きているのだという。1985年以降のコンピュータの容量は悪魔の精神が宿ることができる容量なのだと。同氏はDevil in the Machineという本を出版する予定とされていた。
 しかしこの情報、色々なところでコピペされたが肝心の本も著者もその後全く出てこなかった。実はこの情報の大本は、嘘ニュースで名高いウィークリーワールドニュースの記事だったのだ。
Googleブックより該当記事 Weekly World News - Google ブックス
 作り話かどうか、徹底的に追求されたわけではないが、非常に出所の怪しいニュースである。
 USBを悪魔崇拝と結びつけた教団の記事を見て、この一件を思い出した。

疑う読者たち

 今回の記事は英ガーディアン紙Webサイト内のScienceカテゴリのMartin Robbinsのブログで紹介されたものだ。
 この記事掲載は11月15日。
USB - Satan's Data Connection | Science | The Guardian
 さらに遡ると情報源はブラジルの個人ブログの記事BOMBA: Em SP, culto evangélico proibe uso de tecnologias USB |Bobolhandoであり、しかもそこはユーモアとして嘘記事をよく載せているところだったのである。そのため、ブログのコメント欄には疑う読者も登場、話題となっている教団の存在が確認できないとの情報を寄せる読者も登場した。また、そもそもブログの今回の記事は真偽の責任が取れないといった趣旨の逃げの姿勢が出ていた。
 分かりやすく言うと、このニュースは、「ブラジルにこんな噂がある」というレベルの話で、なおかつ信憑性の低い話なのである。

その後

 そして11月19日、英ガーディアン紙のMartin Robbinsのブログであの記事を載せた理由とその後の反応とそれに対する心情についての記事が掲載された。
Won't get fooled again: satanic USB and Poe's Law | Science | The Guardian
 要するに「ポーの法則」から考えてありえそうだと思った、面白い事を共有したかった、このブログも個人的な場だから、等が真偽を確認せずに噂を載せた理由だというのだ。
 「ポーの法則」とは原理主義者の行動とパロディの判別が難しいことを元にした法則。メモ「ポーの法則」: 忘却からの帰還が詳しい。
 心情が全く理解できないわけではないが、これは不用意だったと思う。ガーディアン紙のWebサイトの内部にあるブログは、個人ブログというよりは報道の一つと受け取られる傾向が強い(しかもカテゴリーではScienceの一角である)のだから。日本でもこの一件はガーディアン紙の情報として、嘘の可能性が高い噂だと認識されないまま話が広がっている。