実用品としてのリボルバーの現在

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こんなまとめがあった。ある程度知識がある人には心底どうでもいいレベルの掛け合いなので、あえて読まないほうがよい。
このブログではリボルバーについてまとめて書いたことはなかったので、実用品としてのリボルバーについて解説してみよう。フィクションで銃を扱っている人にも何かの参考になるはずだ。マニアには既知の話ばかりなので退屈かもしれない。

リボルバーの長所から見る実用性

リボルバーの長所には以下のようなものがある。



(1) 動作不良を起こしにくい
リボルバーは、弾詰まりやスライドの閉鎖不良などのトラブルが起きない。
また、仮に弾の不発があってもトリガーをもう一度引けば(普通のダブルアクションのリボルバー)なら、次の弾を撃つことができる。オートのようにリカバリーに手間取ることもない。
これが最大のメリットである。ただし、これを「信頼性が高い」という言葉で括ると、ニュアンスに問題があることもある。実はリボルバーは落下した際にオートよりも破損を起こしやすい事があるのだ。オートの銃は機構上、可動する部品に摩擦やスプリングのテンションがかかっていてそれが保護になる。一方、普通のリボルバーはトリガーを引く指の力でシリンダーを回すため、シリンダー周辺のテンションは弱く、部品も繊細で衝撃に弱い。単純な機構で動作不良を起こしにくいからと言って、あらゆる局面で丈夫というわけでもないのだ。
そしてこの長所に対するよくある誤解は、「あえてオートよりリボルバーを選ぶ理由になるほど差があるか」という点にある。『ゴルゴ13』でも『MASTERキートン』でもプロフェッショナルが信頼性の高さからリボルバーを選ぶという話が出ているが、その認識はかなり古い年代のものと考えたほうがいい。現実にはだいぶ以前からそんな事例はなくなってきている。
確かに相対的にリボルバーの信頼性は高いが、他の長所短所との兼ね合いからも、長年リボルバーを採用していたアメリカの警察でも80年代からリボルバーは消えていったし、軍隊ではもっと以前からリボルバーは消えていった。もちろん軍・警察用としても例外はある。その辺については追々触れる。


(2) 操作する部品が少なく、操作が簡単
現代の大抵のリボルバーは、弾を込めてあれば後はトリガーを引くだけで弾が発射される。オートではスライドの操作、セイフティの解除などの手順があり(銃にもよるが)、リボルバーと比べると煩瑣だ。
この差は、銃の操作に慣れた人であれば気にする問題ではない。しかし銃を扱いなれていない―あるいは買ってから練習もしない―ような人には大きな違いとなる。要するに銃を撃ち慣れていない人の護身用、いざという時のための銃としては、リボルバーはまだまだメリットがあり、需要があるということだ(だからと言ってリボルバーが素人でも扱いやすい・当たりやすい銃かというと、必ずしもそうではないのだが)。
また、オートの銃を使用せず長期に放置していると弾を押し上げるマガジンのスプリング等がダメになって肝心なときに撃てないことがある。これに対して長期間放置してもリボルバーはトラブルが起きにくい。これも一つの長所である。


(3) 強力な弾を撃てる
オートの銃はグリップ内部に弾倉を入れる都合上、あまり巨大な弾を使えない。オートでもデザートイーグルのような例外はあるが、使える弾の威力の上限は高威力のリボルバーより下である。世界でもトップクラスの威力の拳銃となると、やはりリボルバーが上位にある。
狩猟用、あるいはコレクション用の強力な拳銃となるとリボルバーに勝るものはない。また、弾の自由度の高さも長所だ。オートと違って内部機構に弾が干渉しないので多様な形状の弾頭を撃てる。小型の散弾(ショットシェル)を撃つリボルバーもあるし、口径さえあえば複数の種類の弾を撃てる。
現代の軍の一部の部隊でリボルバーが使われる理由の一つにも、高い威力の弾を使えることが挙げられる。フランスの対テロ部隊GIGNでマグナム・リボルバーのManurhin MR73が使われるのもそれが理由だ。

リボルバーの短所から見る実用性



(1) 装弾数が少ない
リボルバー最大の欠点は、装弾数である。
標準的なリボルバーで6発、日本の警察のリボルバーのように5発というのも珍しくはない。シリンダーに工夫をこらして7〜8発のものもあるし、小口径であればもっと装弾数の多いものはあるが、とにかく少ない。オートの拳銃の多くが15発以上となった現在では、かなりのディスアドバンテージである。しかも弾の再装填(リロード)もオートと比べて手間がかかる。スピードローダー*1もオート拳銃のマガジン交換と比べると時間を要する。
ただし、この短所も一回の戦闘でどれだけ撃つかによっては致命的な問題にはならない。ニューヨーク市警の2006年の統計では、相手が銃を撃ってくる場合の警官の平均射撃数は11.1発、相手が銃を撃たない場合の平均射撃数は4.7発である*2。他の年の統計を見ても、相手が銃を撃ってこない場合の射撃数は5発程度であり、相手が銃を持たないのであればおおむねリボルバーの装弾数で対応できるわけだ。護身目的だとか日本の警察の場合だとかでもこの射撃数は低めになるはずである。心理的なものもあるし平均射撃数以上に装弾数が多いほうが良いに決まっているが、想定される状況次第ではリボルバーの装弾数でも対応可能だろう。


(2) 厚み
装弾数とも絡むが、リボルバーはシリンダーの分どうしても銃の厚みがある。これは改善のしようがない問題である。

その他の実用上の特性



(1) サイレンサーの使用
サイレンサー(消音器)/サプレッサー(減音器)は、リボルバーには普通は装着しない(間違った例として、映画やゴルゴ13で装着しているエピソードがよく挙げられる)。サイレンサーは弾の発射の際のガスを制御することで音を抑える器具だが、リボルバーでは銃口以外にシリンダーに隙間が大きくあり、銃口につける器具ではガスを制御しきれないのである。
これにも例外はあり、著名な消音リボルバー - 火薬と鋼でいくつか過去の事例を紹介している。このように特殊な機構や弾を用いるリボルバーでのみサイレンサーが使用される。


(2) 水中での使用
リボルバーはオートと比べて水中でも発射しやすい。深く潜った状態で水中銃のように撃てるわけではないが、水面近くや上陸作戦などで使う場合、多少の水の抵抗があっても撃てる。こうした水面下での実戦利用のためにSmith & WessonのM686がアメリカ海軍特殊部隊SEALS等に採用された例がある。


(3) 連射
リボルバーの連射速度は、射手の技術に依存する。オートの場合、発射機構の作動時間は銃と弾で決まり、誰が撃っても同じ速度である。しかしリボルバーの作動は、射手の指の動きで速度が変わる。技術さえあればオート以上の速度で弾を連射できるのだ。こうした技術を実際に駆使できる伝説的なシューターも実在している。Ed McGivernやJerry Miculekが有名だ。
Jerry Miculekの記録は凄まじく、12発の弾を2.99秒で撃つ(リロード時間含む)、8発の弾を1.00秒で撃つ(8発装填のリボルバー)といった偉業を成し遂げている。下の動画は4つの標的に2発づつ、合計8発を1.06秒で撃った記録と12発2.99秒の記録を紹介したものだ。

このような高度で特殊な技術はオートでは不可能で、リボルバーは達人の銃といった面もある。

まとめ

昔と比べてリボルバーの地位は相対的に下がった。
しかし固有の地位を占めているのは確かで、毎年発表される新製品の数の多さもそれを実証している。
現在リボルバーは大きく次の三つの用途で使われている。


・護身用・・・軽量、小型なものを中心に作動不良がなく操作しやすい銃として。
・狩猟用・・・マグナム弾を使う大口径の銃として。
・軍用・・・様々な特性を活かした特殊な用途の銃として。


ただし、軍用の割合はかなり低いし、この他に競技用で使われるものもある。
オートの進化によって少数派になって久しいリボルバーだが、その単純さゆえに銃の素人から達人にまで使われる奥深さがある。この立ち位置は今後も変わることがないだろう。

おまけ オートマチック・リボルバー

世界にはリボルバーとオートの機構を合わせ持つオートマチック・リボルバーというものもある。
元祖は19世紀生まれのウェブリー・フォースベリー・オートマチックリボルバー
Webley-Fosbery - Modern Firearms
この銃の機構は、村枝賢一『RED』に登場した「ヘイトソング」の元ネタである。
もう一つは20世紀生まれのマテバ社のユニカ・オートマチックリボルバー
Mateba Model 6 Unica - Modern Firearms
いずれも回転式の弾倉を備え、銃の発射の反動・慣性を利用してその機構を動かして連射できるというものだ。普通のリボルバーやオートと比べて銃が複雑に、大きく重くなり、しかも実用上のメリットは少ない。物好きのための銃である。

(2011-07-17 追記)

ブックマークコメントに回答を。

id:bluebarbe リボルバーとオートマチックで同じ程度の口径の弾の破壊力を比較すると、密閉性が高いオートマチックの方が破壊力が大きいと聞いたことがあります。狩猟マグナムは別格で破壊力が大きいのでしょうか?

確かに同じ威力の弾を撃つ場合、リボルバーのほうがシリンダーの隙間から発射の際の燃焼ガスが漏れるため、威力がオートより低くなります。
しかし、リボルバー方式の銃のほうが設計上オートよりも高威力の弾を撃てるデカい銃が多くあります。そしてオートの威力のある銃のトップ(デザートイーグル50AE)とリボルバーの威力のある銃のトップ(S&W M500)では、使っている弾の威力からリボルバーのほうが上で、市販されている銃で一番威力のある弾を撃てるのはリボルバーしかありません。そしてトップよりやや威力が落ちるレベルの銃でも設計上の限界からリボルバーが上位にあることがポイントになります。
また、同じ高威力の弾を撃つオートとリボルバーを比べた場合でも、設計上リボルバーのほう軽くなり、その結果持ち歩きやすくなっています。
こうした事情から市場にある威力の高い銃で実用性に優れた銃というとほとんどリボルバーになっているわけです。