クリスマスシーズンともなると、それに合わせた絵本・児童書も書店に並ぶようになる。
それを見てふと思い出したのだが、私の母は読み聞かせよりは語り聞かせを得手としていた。絵本片手に話を聞かせるのではなく、自身の記憶する話を語るのだ。
ちなみに母が得意とする話は三島由紀夫の『黒蜥蜴』*1であった。
小さな頃の私は、あのトリックの「長椅子」というもの自体が分からなかったものだ。
しかし大きくなって思い返すと、あれは果たして幼稚園児くらいの子に聞かせるのに良い話だったものかどうか。
その他、母の語りには民話ものも多かったが、かなりいい加減な記憶が混じっていたようである。例えば山姥(やまんば)のことを母はなぜか「オニヤンマ」と言っていた(鬼婆が混じったのだろうか)。それではトンボだ。これはさすがに私が昆虫の知識を少し蓄えた頃に間違いに気づいた。
この「オニヤンマ」の件はどうも母の中で記憶として固定されていたらしく、言う事を聞かない私や兄弟に「オニヤンマが来るよ!」などと脅し文句にも使っていた。間違いであることに気づいていた私達には一向に脅しにならず、逆に母に説明したことがあった。母にとってこの間違いは痛恨事であったらしく、今でもその思い出を語ることがある。