小学生の歩数を探して

小学生の歩数を計測した調査についての記事が先週話題となった。
歩かない小学生、歩数3割減…ゲーム機の影響? : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
元となった調査はhttp://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2012/02/60m29100.htm
この内容と結果から、歩数とゲームの関係を結論付けるのは議論として粗雑に過ぎるだろう。記事の主張はさておき、歩数についての調査が気になったので、少し調べてみた。


まずCiNiiでみつけた論文のうち、面白そうなものを。
CiNii 論文 -  児童の体格・体力と生活状況との関連
上は首都圏の4〜6年生を対象とした歩数と体力についての2006年の論文。
この調査では1983年や1994年の例と歩数はほぼ同じとされている。また引用されているBMIに基づく適切な歩数(一日あたり男児15,000歩、女児12,000歩)というのもどの程度検証されているのか気になる。とにかく何らかの参考にはなるだろう。
ただし、これだけで「首都圏の小学生の歩数は変化していない」とまで敷衍して断定できるかというと難しいだろう。
CiNii 論文 -  4. 児童における歩数計の妥当性(第7回日本体力医学会北海道地方会)
上の研究は歩数計を使って児童の歩数を正確に計測できるか検証したものであり、振り子式歩数計では正確に計測できないと結論づけられている。
この研究から、振り子式歩数計を使った過去の調査と加速度センサー歩数計を使った近年の調査を単純比較できないと考えられる。
CiNii 論文 -  310.児童の活動量は休日に減少する
CiNii 論文 -  089U00014 体育授業の削減は児童の活動量を低下させる
CiNii 論文 -  15G31103 小学生の日常活動(歩数)についての実態調査

上3つの研究は、休日や体育授業のある日の平均歩数の調査結果から週休二日制への移行や体育授業の削減を危惧した研究である。
CiNii 論文 -  07発-1P-K09 季節要因が児童の生活スタイル及び歩数に与える影響について(07.発育発達,一般研究発表抄録)
上の調査は季節要因と歩数についての情報がある研究(抄録)。
CiNii 論文 -  ネパール丘陵地農村地帯の青少年の日常生活における歩数および心拍数
上はネパール丘陵地帯農村の児童の調査を行い、諸外国の調査と比較した論文。他国での小学生の歩数が分かる。


次に、読売の記事で言及されている1979年の歩数の調査を追ってみた。
波多野義郎の1979年の調査の数値(小学生の一日の歩数17,120歩)は、教育や健康の分野でよく引用されている。
波多野氏の著作を調べたところ『ウォーキングと歩数の科学』という本があった。ここに『体育科教育』の論文(波多野義郎(1979)現代っ子はどれだけ動いているか. 体育科教育, 27: 29-31)が転載されており、これが1979年の小学生の歩数の大元の情報である。

この都内公立O小学校の男子・女子の平均が17,120歩であり、「1979年の小学生の平均歩数」として使われる数字と合致する。
上の表の細部の差については次のように説明されている。
・K校は交通機関を利用した遠方からの通学が多く、O校は全員徒歩通学。電車・バスを利用すると無意識に少しずつ多く歩く傾向があるため、K校の通学時の歩数が多い。
・家までの距離に差がなくとも男子のほうが寄り道が多く、歩数が多くなる。
・運動場はK校が大きく、この差が運動場をよく利用する在校中の男子の歩数に影響すると考えられる。
・帰宅後はO校のほうが塾や習い事、外での遊びが盛んで、K校は自宅で勉強することが多い。
・休日はK校生徒が映画、デパート、友人宅など遠出することが多く、O校生徒は居住地域を離れない。
・表にはないが体育授業の一時間の平均歩数はK校5,050歩、O校2,800歩であり、体育授業の内容にも差がある。なお、体育時間の教師の歩数は、K校教師(男性)4,100歩、O校教師(女性)700歩で、教員の歩数にも差がある。


興味深い調査ではあるが、18人の平均というのは、時代による歩数の変化を比較するにはあまりに少ない。加えてこの時代の歩数計は振り子式の歩数計で、正確に計測できたとは考えられない。後の時代の加速度センサー式歩数計を用いた調査結果との厳密な比較には使えないだろう。
この調査の数字がよく使われるのは、この時代の調査が他にないことと、その後の時代の調査との差が大きく、ある意味センセーショナルな効果があるからではないかと思う。