知られざる軍隊格闘技の世界

「もっと記事を書け」とお叱りを受けたので(誇張)、今回はマンガでしか軍隊格闘技を知らない人のために軍隊格闘技についてちょっと書く。
先日探偵ファイルにこんな記事があったのだが
http://www.tanteifile.com/world/2012/01/29_01/index.html
ステマの諸流派の違いを全く無視していた(これはWikipedia:システマ (格闘技)がそうなっているせいもある)。
まあ、基礎的な事が知られていないのはマイナー格闘技によくある悲哀だ。
ステマだけ書くとあっという間にネタが尽きてヤバい話を書きそうになるので、軍隊格闘技全般について、簡単にメモとして書いてみよう。


・近代の軍隊格闘技は、個人や集団が実戦の知識経験と既存と格闘技を基に兵士に適した技や練習方法を構成したものが中心である。
・国によって軍隊格闘技は異なるが、同じ国でも所属によって(例えば陸軍と海兵隊など)違うことがある。
・軍隊格闘技は、その国の伝統武術を取り入れている事がある。例えばタイ陸軍ではムエタイの古い流派からも技を採用している。
・武器(銃・ナイフ等)の使用を想定していること、反則技がなく急所攻撃があること、そして敵・味方が集団である事が競技化した格闘技との違いである。特に攻撃する味方が複数いる状況を練習する格闘技は、軍隊格闘技以外にはまずない。
・軍隊格闘技は地域・時代によって変化するが、マンガや書籍で紹介されている知識は古かったりローカルなものだったりすることがある。
・「軍隊格闘技では拳を痛めないように掌底を使う」という説明がなされることがあるが、実際は顎を打つなど限定された状況でしか使われないし、全ての軍隊格闘技でそうした技法を使うわけでもない。特定の知識が全ての軍隊格闘技に該当すると考えるのは早計である。
・武器は自分が使う場合、相手が使う場合の両方がある。いずれの場合も素手の技術だけで戦う既存の格闘技の技術だけでは対応が難しくなる。例えば寝技の攻防も、ナイフを持った相手に総合格闘技の試合と同じように動いたのでは負けてしまう。
・伝統武術に軍隊格闘技向けの技法(武器や急所攻撃の技法等)があると取り入れられることもある。しかし現代の状況に対応できない技、習得困難な技は取り入れられない。
・軍で格闘技を指導あるいは習得した人間が民間向けに軍隊格闘技を教える事がある。現在よく知られている軍隊格闘技は大体このパターン。このような「民間向けの軍隊格闘技」というものが存在する。
・民間向けの軍隊格闘技は、柔道や空手のような段位・級位制度を導入したり(クラヴマガ等)、競技大会を開催したり、一般人向けにカリキュラムを工夫したりなど、軍の教育課程そのままではない事がある。
・米陸軍のように軍内部で格闘技のトーナメントを開催するといった例もある。この場合、ルールの都合上軍隊格闘技というよりは競技としての総合格闘技の試合になる。
・民間向けと軍隊向けの練習内容の区別が曖昧な格闘技もある。システマ(Ryabko's Systema)はこの典型。
・民間向け軍隊格闘技は、大元の軍が同じでも格闘技を伝えた人間やその後の経緯によって複数の流派・団体に分かれている事がある。イスラエルクラヴマガもロシアのシステマも複数の流派があり、練習内容にもそれぞれ違いがある。
・例えばシステマはKadochnikov's Systema、Retuinskih's Systema(ROSS)、Ryabko's Systema、Systema Spetsnazなど多くのスタイルがある。
・このような複数の団体が存在する軍隊格闘技は、時に商標登録でもめる事がある。日本ではWikipedia:クラヴ・マガに掲載された「クラヴ・マガの商標登録問題」があった。
・民間で伝統武術・格闘技を教えている人が軍に招かれて定期・不定期に指導する事がある。こうした実績は、「〜軍で認められた」とか「〜軍で指導」といった箔付けに使われる事があるが、指導内容が軍に評価されず、その後の軍隊格闘技に影響を与えてない場合もある。
・上で説明した「民間向け軍隊格闘技」の人間が他国の軍で指導する事もある。こういった込み入った事情は「軍採用の格闘技」という宣伝がなされる事とあいまって情報を混乱させている。