ビッグコミックスピリッツ連載の漫画『バンビーノ!』の先週の話にトマトがないの時代のイタリア料理という内容があり、それに関連してその時代の料理としてジャガイモの使用が妥当かどうかが話題になっている。
・漫画「バンビ〜ノ!」のミスに感じた「料理の定義」の難しさ - バッタもん日記
・【バンビーノミス疑惑】トマトは料理に使わないけど無いけどじゃがいもは使う時期って無かったっけ? - 情報の海の漂流者
自分がこのトピックで思い出すのは『マリー・アントワネットの料理人』(原作・白川晶、作画・里見桂、集英社)で、主人公の料理人が当時ヨーロッパでは食べられていなかったトマトを使ってスパゲティを作る話だ。

マリー・アントワネットの料理人 2 (ジャンプコミックス デラックス)
- 作者: 里見桂,白川晶
- 出版社/メーカー: 集英社
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こうしたフィクションで食文化を考証する際に困るのは、ヨーロッパ内でも地域や社会階層によって新しい食品の普及に差があることだ。関連書から、今回話題になったイタリアにおけるトマトとジャガイモの普及について参考になりそうな情報を探ってみよう。
トマトの普及については橘みのり『トマトが野菜になった日』(草思社)が詳しい。

- 作者: 橘みのり
- 出版社/メーカー: 草思社
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一方ジャガイモはどうか。ジャガイモは16世紀にスペイン人が南米から持ち帰ったことはよく知られている。こちらも当初は食用としては普及せず、食用として広がるのは18世紀以降という国がほとんどである。フランスやプロシア、アイルランドといった国の例がよく紹介される。イタリアの例についてはPropitious Esculent: The Potato in World Historyという本に記述がある。

Propitious Esculent: The Potato in World History
- 作者: John Reader
- 出版社/メーカー: William Heinemann
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Italy and the Potato: A History, 1550-2000
- 作者: David Gentilcore
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以上の情報から判断するに、イタリアではトマトのほうが食用として広まった時期が早く、ジャガイモのほうが遅い。
地域差もあるからあまり厳密に考えなくとも良いかもしれないが、トマトを使わない時代の料理を考えてジャガイモを使うというのは、やはり無理があるように思える。
参考文献:
上で紹介した図書以外で、こうした比較的歴史が浅いにも関わらず世界に広がって影響を及ぼした食用植物ついて詳しい本に『世界を変えた野菜読本 : トマト ジャガイモ トウモロコシ トウガラシ』がある。

世界を変えた野菜読本―トマト、ジャガイモ、トウモロコシ、トウガラシ
- 作者: シルヴィア・ジョンソン,金原瑞人
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(2012-6-26 20:50 参考文献を追加)
*1: Antonio Latini (1642–1692)による。スペイン風トマトソースやトマトを使ったナス料理、トマトを使った煮込み料理のレシピが残っている。この"スペイン風"という部分から分かるように、このレシピ以前からスペインにはトマトソースが存在していたと考えられている。