システマを知らない人にシステマを紹介するための動画

今回はロシア武術システマの動画について書いてみる。
個人的な話になるが、システマどころか格闘技全般についてほとんど知らない家族や友人にどのようにシステマを紹介するかという問題があって、その対応として一般人にシステマについて伝えられる動画についてまとめてみた。


動画そのものを紹介する前に、格闘技を扱う動画の難しさについても少し書いておく。
ステマのようにマイナーな格闘技というのは、門外の人にとって知る機会が限られている。興味がある人や漫画など創作の題材にする人は、まず資料(本、雑誌、ビデオ)に目を通す事が多い。中でも手軽に見られるネット動画をチェックする人が多いはずだ。システマの体験・見学に来る人にも、動画を見たという人がよくいる。
しかし限られた映像で未知の格闘技について理解するのは困難なことだ。実際の動きと見た人の理解には結構ギャップが生じる。特にシステマは伝統の型のような固定的な技があるわけではないので理解されにくい。そのせいか、システマを描写したアニメや漫画では「資料に出てくる技をそのまま使っているが、シチュエーションがあわない」「目につきやすい部分のイメージに捉われて全く別物になってしまっている」といったことがある。
具体例を挙げると、漫画・アニメでシステマの動きとして手をうねらせて構えさせている作品*1がいくつかあるが、現実のシステマでそのようなことはない。これも印象に引きずられて実際の動きをちゃんと見ていないためだろう*2。以前書いた『ハヤテのごとく! CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU』第二夜のシステマを解説する - 火薬と鋼もそうした例の一つだと思う。


そもそも伝統武術や軍隊格闘技の動画はデモンストレーションが中心だが、技術体系の中での位置づけや目に見えにくい身体操作、感覚的・心理的側面は伝わりにくい。練習者向けに販売されているDVDでも、実際に指導者から学ぶようにはいかないのだが、映像を見ているとそれだけで分かったようなつもりになるという弊害がある。
また、Youtubeのような動画サイトで見られる様々なシステマの動画には「昔の映像で今では練習されていない技術がある」「他の流派の動画が混ざっている」「練習者向けで説明が少ない・分かりにくい」「断片的である」といった問題もある。特にシステマ関係者以外がアップした動画は、年代や流派の違いに無頓着なので注意が必要だ。
映像・動画で格闘技の類を紹介するものとして比較的よく出来ていると思うのは、海外のドキュメンタリーとして作成されたものだ。ただし、システマはそういった番組で取り上げられた例が少ない。
余談。格闘技ドキュメンタリーのシリーズにはディスカバリーチャンネルの「Fight Quest」、ヒストリー・チャンネルの「Human Weapon」、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルの「Fight Science」、フィンランドの「Kill Arman」、香港電台の「功夫傳奇」といった番組が知られており、ネットで見られるものも少なくない。日本でも日本の武術を題材にこの種の番組を作ればいいと思うのだが、無理だろう。


ステマを紹介する動画として、まずはこの数少ないドキュメンタリーでシステマが扱われた例を紹介しよう。
これらの映像は断片的だが、番組のテーマにあわせて分かりやすく編集されており、イメージとして掴みやすい。


2004年に放送された格闘技ドキュメンタリー「Go Warrior」から。

DVD化もされた番組で、歴史の説明からミカエル・リャブコ、ヴラディミア・ヴァシリエフといったシステマ・インストラクターのデモンストレーションまでを含む。この映像のインパクトは大きく、ここに出てきた技術がそっくりそのまま日本の漫画『アクメツ』『ディアスポリス』に登場する。



2007年にディスカバリー・チャンネルのミリタリーチャンネル「Weaponology」でロシア軍特殊部隊のスペツナズの武器を紹介する回があり、そこでシステマが紹介された。前半はシャベル術やサンボで、システマの解説は終盤のわずかな時間。説明と多人数対一人のデモンストレーションだが、これはかなり分かりにくい。軍事を扱ったドキュメンタリーであり、格闘技術の紹介を主としていないためだろう。



(埋め込みでは再生できない。リンク先で視聴可能→https://www.youtube.com/watch?v=_I8CoLNNzJg
これは2007年のディスカバリー・チャンネル向けに撮影された際の映像からヴラディミア・ヴァシリエフによる対ナイフのデモンストレーション。



2012年にディスカバリー・チャンネルで放送されたシークレットサービスのドキュメンタリー「Secret Service Secrets」から。
ステマのインストラクター、マーティン・ウィーラーが護衛のためのデモンストレーションを見せている。銃を持った相手に対する技術や護衛対象の守り方。


続いて日本のテレビ番組でシステマが紹介された映像から。
英語が不得手な人にはこちらのほうがいいかもしれないが、演出がバラエティ番組っぽいものが多く、また初歩的な内容中心のためデモンストレーションやスパーリングのような、実戦をイメージしやすい場面は少ない。その代わり、普段どのような練習をしているかについては海外ドキュメンタリーよりも分かりやすい。



2010年11月10日に放送された東京MXテレビの「ザ・ゴールデンアワー」から、10月24日に開催されたシステマワークショップの取材。
これより前にも東京MXテレビではシステマが取り上げられたことがある(2010年9月16日)。その際はセミナーのため来日したダニエル・リャブコが出演しているのだが、そちらはテレビの撮影を横から撮った動画しかなかった。(下のような動画がいくつかアップされている)





2012年6月17日に日本テレビ系で放送された「世界まる見え!DX特別版」から、システマジャパン本部道場への取材。


最後に紹介するのはセミナーやDVDの予告・ダイジェスト動画。
前述したわかりにくさの問題はあるが、情報量はこういった動画のほうが多い。セミナーやDVDの内容は、システマ全般を紹介するというより特定のテーマにあわせた内容になっている。全て紹介するとキリがないので、ある程度絞ったテーマにつき2つずつ紹介してみよう。
・ストライク(打撃)

ミカエル・リャブコによるストライクのデモ。体を大きく捻ったり踏み込みを利用したりせず、脱力した腕だけで威力のあるパンチを打つシステマの特徴が分かる。相手に認識されないように打ったり、逆に相手に拳を意識させたり、相手との関係性もポイントになっている。

ヴラディミア・ヴァシリエフによるストライクのデモ。柔軟な動きで打つ。
・関節技、格闘

グラウンドでの技術。特定の関節技・投げ技を使うのではなく、自分と相手の力の方向や体勢、構造を使う。

「動き続ける」というシステマの基本原理がよく出ているデモ。ここでは相手を抑えこむのではなく、瞬間的な動きや打撃で関節を攻撃している。関節を通じて他の箇所に影響が及ぶようにしている場合もある。
・ナイフ

ヴラディミア・ヴァシリエフによるナイフのデモ。ナイフの動きだけでなく相互の位置関係やコントロールも重要。

ミカエル・リャブコによるナイフ捕り。ナイフの方向、力の流れを感じ取ってコントロール
・スティック(杖、棒)


スティックも身体操作、相互の力の流れや関係性がポイントで、決まった型で動いているわけではない。
・身の回りの品を武器に


日用品の武器化は、道具ごとに決まった使い方があるわけではなく道具の形状・特性をいかした臨機応変さや相手の反応を起こす柔軟な使い方が基になる。
・銃器

銃を持ったまま動く体術。


ステマを学んでいる人にとっては、これ以外のお勧めもあるかと思う。なにぶんシステマは多岐に渡るので、一般向けとしても紹介しきれないものが多い。上で紹介した分だけでも多すぎるくらいだ。武器道具類についてもこの他にもあるのだが(軍用シャベル、コサックサーベル(シャシュカ)、コサック鞭など)、見やすい動画があまりないので省いた。

*1:漫画『ディアスポリス』『嘘喰い』、アニメ『ハヤテのごとく! CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU』に登場するシステマがその例。

*2:実際の動きをわかった上でイメージの描写を重視した可能性もあるが、とにかく現実と違いすぎる。武術の構えに関する先入観もあるのではないかと思う。