前回と異なり、今回は基礎的な単語について書いてみる。
今回は“combatives”について。
形容詞のcombativeは「闘争的な,闘志盛んな; けんか好きな,好戦的な」(研究社和英中辞典)という意味だが、“combatives”となると違う意味になる。
本来、“combatives”は軍におけるhand-to-hand combatの訓練や技術の体系のことを意味している。よりわかりやすく書くと「一対一、または多人数の素手やナイフ、棒など手持ちの武器を使った近接戦闘」技術のことを意味している(投げナイフ等の投擲武器や銃を使った格闘を含む場合もある)。
この名前は第二次世界大戦後に米軍のマニュアルで使われており、現在も使われている。
米軍のマニュアルの例 FM 3-25.150 TABLE OF CONTENTS
“hand-to-hand combat”と同じように使われることが多いが、最大の違いは、実戦そのものを意味する言葉ではないことにある。
“in a hand-to-hand combat situation”なら「近接格闘の状況」で実戦を意味しているが、“in a conbatives situation”なら「格闘訓練の状況」で実戦ではないことを意味していることがほとんどだ(例外もある)。
この語が使われるのは多くの場合は軍隊格闘技だが、違う領域でも使われている。
ひとつは警察など法執行機関の逮捕術であり、もうひとつは民間人の護身術である。軍と関係ない場所で“combatives”という名前で護身術や逮捕術を教える団体があるのだ。しかしいずれの場合も伝統武術や競技ではなく実戦向けの即応性を重視した新しい体系に使われる。
こうした事情から適した訳語や意味も状況によって異なり、単なる「格闘技」で済む場合もあるし「軍隊格闘技」や「逮捕術」「護身術」といった意味合いの場合もある。そして上述したように訓練や技術体系のニュアンスを含んでいることが多い。