業者に選書を丸投げする図書館の話

佐賀県武雄市図書館で購入した図書が話題になっている。
10年以上前のExcel本や「公認会計士受験本」・・・ 武雄市図書館はTSUTAYAの「在庫処分」なのか : J-CASTニュース
それに関連して、図書館でどう本を選ぶかについてのまとめがあった。
武雄図書館の選書ってどうしてああなの? ~あなたの知らない選書の話~ - Togetter
話を遡ると、2012年に話題になった武雄の選書委員制度については次のまとめがある。
武雄市図書館選書委員制度 - Togetter
2012年の時の推薦リストは次でテキスト化されている。
武雄市図書館選書委員おススメの本一覧表 - 突発非同期不連続


選書については様々な方式があるが、上で解説されていない方式に「業者に丸投げする」というものがある。
丸投げと言ってもその図書館の本全てを業者任せにするというわけではなく、部分的に選書を任せて買うものだ。
見計らいに似ているが、図書館職員の選書会議等を経ずに業者の判断に委ねる点が大きく異なる。
私はこれまでいくつかの大学図書館でこの丸投げ方式を経験しているので、どのようなものか書いてみよう。
まず、前提としてこの方式を使うのは短い期間に大量の図書を受け入れなければならない時だ。
私が経験した事例は次の2つのパターンに分類できる。


(1) 図書館を新設して一定の蔵書が必要な場合(特に国家資格養成課程がある大学では蔵書数の指定が厳しいことがある)
(2) 予算が余って年度内に予算消化したい場合


このような場合に図書館が常に取引している書店、あるいは図書館新設や業務委託に関わった業者(これも書店である)に期日や予算、必要冊数、図書のテーマなどを指定すると数千冊単位の図書を短期間に納入してくれるのである。
契約内容によっては本の装備(ラベル類や押印)を済ませてデータ(図書館目録の電子データ)と一緒に納入してくれる。これは急ぎで大量の蔵書を揃えたい図書館には非常にありがたい方式だと言える。
そして丸投げ方式では購入図書の選択は業者に任せることになる。
発注側の仕事は図書の主題・分野の指定くらいで、図書館職員のチェックさえないこともある。
丸投げというのが時間や人員の都合で否応なく発生するにしても、本当は選書の基準や後からのチェック、問題があった時の検証といった基準・手続きは明確にあるべきだろう。
そうでなければ図書館の主体はどこにあるのかという根本的な問題につながる。
しかし何も明確に決まっておらず、発注側と受託側の信頼関係だけで成り立っているところがあるのだ。
実際のところ、丸投げされた業者が在庫処分や入手しやすさといった自社の都合だけで図書をそろえたとしたら、信頼が低下し、その受託者に仕事が来なくなるだろう。このためそうそう問題は生じにくい。
一方、発注者と受託者の関係が密接で発注を失うような心配がないところでは、丸投げ方式でくる図書のチョイスも悪くなる。
そういうところでは余程状況が悪化するまでは事態は改まらず、図書館職員と利用者にしわ寄せが来るのである。
私はいくつかの現場でそういう例を経験している(それでも武雄ほど古い本を入れられた経験はないが)。
契約を決めるのは大学の上層部と書店の部長クラスであり、図書館職員が介在できなかったのだ。
ある大学では図書館の取引先である書店を辞めた人間が大学の上層部にいて、丸投げ方式の選書がまずくとも、その人間が大学を辞めるまで関係が改まることはなかった。
今となっては昔の話だが、今もそういう関係で契約しているところはあるかもしれない。