図書館にとって他人事ではない「ひとつの本屋で起きたこと。」

今月、立教大学池袋キャンパスの書店員さんの退職経緯報告の記事が話題になった。
ひとつの本屋で起きたこと。 | 本屋でんすけ にゃわら版
“にゃわら版”は誰のもの? | 本屋でんすけ にゃわら版
現場と専門知識への理解がない上層部、負担を受ける現場の人間とその待遇の悪さなど、図書館に身を置いている人間には身につまされる話だった。
この話題の状況と似た例として、図書館―特に大学図書館委託の話を書こうと思っていたのだが、いざ書こうと思うと平静でいられず、なかなか落ち着いて書くことができなかった。
そろそろ書いておいたほうがいいと思ったので、書いてみる。


私は正規職員の大学図書館司書になる前に委託でアルバイト・契約社員・正社員の立場で20ほどの図書館の仕事を経験している。
その中で今回話題になったような状況は何度か遭遇した。
まず、前提として大学は附属図書館の人員を委託形式で入れることが多い(派遣のこともある)。
一部を直接雇用の職員とし、部分的委託にしている「部分委託」が多いが、直接雇用の職員をおかない「全面委託」もある。
2000年代頭には委託化を進めることで大学に補助金も出た。大学の研究者が非常勤ばかりになったのと同様、国の政策の結果と言ってもいいだろう。
当然、委託で働く人間の給料をあげにくいようになっている。
受託している企業はしばしば書店や図書館用品の納入など、図書館委託以外の仕事をあてにしていることがあり、その場合さらに委託契約の金額は低く抑えられる。
加えて司書資格所持者が世の中に多く、それでいて正規の職員の口が少ないこともあって、低い給料でも能力のある人が集まる(最近はそうでもなくなってきたが)
つまり「人件費を低くおさえたい大学」「受託金額が低くとも契約したい企業」「給料が低くとも集まる有資格者」の3者の都合の結果、やりがい搾取として低賃金の図書館委託が生まれてきた。図書館委託が人件費節約で広まった以上、給与はあがりにくい。


ここまでは背景の話だ。
委託なしでありえなくなっている現在の図書館、特に部分委託が多い大学図書館ではさらに厄介ごとがある。
それは委託職員は3つの顔を見ていなければならないということだ。
3つとは大学が直接雇用している図書館職員・図書館利用者・上司である受託会社の社員の3者の顔である。
このうち、図書館利用者の顔を見るのは多くの場合耐えられる(もちろんモンスタークレーマーのような利用者がいて困る場合はある)
厄介なことになるのはそれ以外の2者だ。大学の図書館職員はしばしば委託職員がもらっている給与に見合わない質と量の仕事を求めるし、受託会社の社員は実際の仕事の理解が薄いことがある。
大学図書館職員の問題についてはたまに図書館関係者の文章でパワハラ司書を連想してしまう - 火薬と鋼に、受託会社の専門知識問題についてはなぜ図書館業務委託・受託会社に専門知識が必要なのか - 火薬と鋼に書いた。
大学図書館職員の問題についてもう少し書いておこう。
大学図書館職員は図書館委託契約に関与しにくく、委託職員の待遇について関与していないことも珍しくない。
そして図書館職員は図書館サービスを充実させようと思ったら、人件費は現状維持で働いている人間の能力を向上させ、あるいは勤務時間を伸ばすことになる。
この条件を満たすということは、委託職員に給料以上の仕事をさせるということに他ならない。スキルがある委託職員を安く使う図書館職員は大学内外での評価が高まるのである。
大学図書館で優れた業績をあげた人はしばしば(委託を含めた)図書館職員のスキル向上の必要性や業務の質を高める工夫を口にするが、そういった職員の待遇向上については言及しない。まるで(自分の)図書館のために委託職員は見返りなく尽くして当然だと言わんばかりの人もいる。
またそれとは違った例として、サービスの向上を気にせず、自分の意向に沿った図書館サービス体制のためだけに委託職員を疲弊させる図書館職員もいる。
こうした図書館体制の問題は、とにかく委託職員が消耗し、場合によってはその図書館どころか図書館界そのものからいなくなっていくことだ。
「一将功成りて万骨枯る」という通り、図書館職員の成功や満足の影で健康を害したりパワハラに遭ったりして辞めた委託職員の例を私はかなり知っている。
私はその種の事態が進んでまともに仕事が回らなくなった図書館に採用された。
折角なので図書館の向上に伴ってそこで働く人の待遇を良くするために働いている。
なかなか思い通りにはいかないが、有期雇用の職員を無期雇用にしたり、委託の人を大学直接雇用にしたりといった事例を作ることはできている。今後もっと良くしていきたいが、大学を取り巻く状況からも難しい。