登山中のエネルギー・水分補給の計算式

Twtterで登山の際に持っていく水の計算式が話題になっていた。

給水量(ml)=
体重(kg) × 行動時間(時間) × 5(係数) × 0.8

という式だ。
この式はよく知られているが、この式の元になった研究はあまり知られていないようなので、元の研究を紹介しようと思う。

あの式の元になったのは山本正嘉. 登山時のエネルギー・水分補給に関する「現実的」な指針の作成. 登山医学. 32 (1) 36-44, 2012である。

山本は、登山時の栄養補給・水分補給のガイドラインがない現状に対して指針を作るべく登山者の消費量を元に研究を行った。
エネルギー消費については、健常な若年男女(登山の初心者)が一般的な登山道を軽装で標準コースタイム通りの速度で上って下りてくる際のエネルギー消費量(1時間につき10分程度の小休止も含んだ値)を携帯型の呼吸代謝測定装置を用いて測定した。
水分消費については、様々な年齢層(9~73歳)の男女を対象者とし、山も低山から本格的な山までと幅広く、季節についても、春夏秋冬が含まれている調査データを元にした(いずれも標準的な歩行ペースで歩いている)。
こうした消費量の調査結果を元に,エネルギーと水分の消費量に関する以下の式と補給の指針を作成した。

軽装かつ標準的なペースで歩く場合には簡易なa式を使い、b式は汎用性が高く様々な応用ができる。

なお、脱水量・消費量と全く同量の水分・エネルギーを補給するのは運搬する上で大変なので、既存の日本体育協会のスポーツ活動中の熱中症対策の指針などを参考に、消費した分の7割以上を補給すると想定している。a式・b式で算出した消費量に0.7をかけて補給量を算出するわけだ。
a式・b式から求まる消費量は登山条件が最もよい時の値であり、登山条件が悪い場合には消費量は大幅に増える。「たとえば、強風に逆らって歩けば、エネルギー消費量は2倍以上になる。また暑熱環境で激しい運動をすれば、脱水量はやはり2倍以上となる。登山道が悪路であったり、積雪や藪があっても同様である」とされている。
様々な環境と個人差があるので調節は必要だ。